本年度は主に酵母液胞への中性アミノ酸およびヒスチジンの取り込みに関わるAvt1と、塩基性アミノ酸の蓄積に関わるVsb1の活性調節について検討した。Vsb1はそのNおよびC末端に網羅的質量分析によって同定された複数のリン酸化部位を含む長い親水性領域を持つ。ウエスタンブロット解析により、栄養豊富条件ではホスファターゼ処理によって低分子量側に移行するバンドが検出されたことから、Vsb1は栄養豊富条件でリン酸化されていることが示唆された。さらに近位依存性標識法によりVsb1の相互作用因子同定を試みた結果、複数のキナーゼ/ホスファターゼが同定された。 アルギニンの毒性アナログに対する感受性を指標として親水性領域欠損変異型Vsb1の活性を評価したところ、N末端親水性領域の大部分がVsb1活性に必須ではない一方で、C末端親水性領域はVsb1の細胞内レベルと活性に関わることが示唆された。一方Avt1に関しては、N末端親水性領域の欠損変異型Avt1が脱リン酸化されており、その発現株では液胞内アミノ酸量の増加と同時に生育低下を示したことから、リン酸化によるAvt1活性の適正化が生育に重要であると考えられる。 また我々は窒素飢餓の細胞に窒素源を再添加した際に、オートファジーの減衰がVsb1欠損株で早期化することを見出している。同条件下でVsb1欠損による遺伝子発現の変化を網羅的に解析したところ、Vsb1欠損株ではリン酸代謝関連遺伝子の発現が低下していた。 本研究により、酵母液胞膜タンパク質Vsb1が、プロトン濃度勾配依存的に塩基性アミノ酸を液胞内に取り込むトランスポーターであることが示唆された。その一方で、網羅的解析からVsb1がアミノ酸だけでなくリン酸代謝にも関与する可能性が示され、栄養応答に関わるレセプター機能の有無も含め今後の解析が必要である。
|