PET(ポリエチレンテレフタレート)を主とするプラスチック廃棄物は、重大な環境問題である。近年、PETを原料にまで分解できる酵素「PETase(ペターゼ)」が発見され、資源リサイクル実現可能な酵素として注目されている。本研究では、独自の酵素耐熱化技術を利用してPETaseを安定化・高活性化することを目指した。具体的にはPETaseの立体構造から構造安定性に影響する部分を20箇所ほど見出し、その部分のアミノ酸を耐熱化情報に従い改変した。各変異体の熱安定性ならびに活性を測定し、酵素機能が向上した4種類の変異体を得ることができた。次にこれらの変異を全て導入した改良PETaseを作成し、野生型と機能を比較したところ、熱安定性は30℃、PET分解活性は15倍向上していることがわかった。また、野生型は40℃以上では失活するが、改良酵素は60℃でも活性を保持していることが明らかとなった。更に改良酵素の結晶を作成し、X線結晶構造解析を行ったところ、変異導入部分以外の構造は野生型と同じであることがわかった。すなわち、改良酵素に施した変異は活性部位ならびに全体構造に影響を与えずに酵素機能を向上させていることが明らかたとなった。本改変酵素は2022年にNatureに発表された改良型PETaseよりも10℃以上、熱安定性が高い。すなわち、より高温で酵素反応を行うことができるため、更なるPET分解率の向上が見込まれる。本研究開発は世界的にも競争力を持つ可能性を秘めた性能の良い酵素の作製に成功しており、当初想定を超えた成果であると考えられる。
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