研究課題/領域番号 |
21K05391
|
研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
長尾 耕治郎 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (40587325)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | リン脂質 |
研究実績の概要 |
温度は生体分子の分子運動、構造、反応性を支配する根源的な物理量であり、細胞内外の温度変化は細胞増殖や物質代謝、情報伝達など幅広い細胞機能に影響を与える。このため、温度変化を感知し、その変化へと適応することが細胞機能を維持するために重要である。生体膜を構成するリン脂質は温度変化の影響を最も強く受ける生体分子の一つである。温度が低下するとリン脂質の分子運動が低下するため、生体膜は密に充填された流動性の低い状態へと変化する。しかし、細胞はリン脂質の脂肪酸鎖における不飽和脂肪酸(二重結合を含む脂肪酸)の割合を増加させることで、生体膜の流動性を高め、低温環境でも生体膜の物性と機能を維持することが出来る。このため、脂肪酸に二重結合を導入する脂肪酸不飽和化酵素は温度適応において重要な酵素であると考えられている。しかし、その分子機構については不明な点が多く残されていた。本研究ではこれまでに、低温曝露時に脂肪酸不飽和化酵素がミトコンドリアにおける不飽和脂肪酸含有リン脂質を増加させることで、クリステ構造の再編を伴うF1Fo-ATPaseの多量体形成の制御を介して、ミトコンドリアにおける熱産生を細胞自律的に活性化することを明らかにしてきた。さらに、ミトコンドリア以外のオルガネラにおいても脂肪酸不飽和化酵素により脂質膜機能が制御されることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々のオルガネラにおいて、膜脂質のリモデリングを介する新たな温度応答機構を明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
ショウジョウバエ細胞を用いたこれまでの研究からミトコンドリアを含む多様なオルガネラにおいて脂肪酸不飽和化酵素が脂質膜機能の制御に重要であることを示してきた。そこで、今後多様なオルガネラでの機能を統合的に解析することにより、細胞全体での温度応答機構の解明を目指す。さらに、ショウジョウバエ細胞において得た知見をもとに、哺乳動物細胞における温度応答機構も評価し、動物細胞における普遍的な温度応答機構を明らかにすることを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究により、温度変化への応答におけるミトコンドリア以外のオルガネラの重要性が示唆された。このため、2022年度はミトコンドリア以外のオルガネラでの解析を優先した。このため、次年度へ繰り越した予算を用いて、2023年度にミトコンドリアを含む多様なオルガネラにおける機能を統合的に解析する予定である。
|