研究実績の概要 |
花粉の発芽は、作物種において人工受粉の効率や、種子が可食部となる穀類では収量に直結する過程であることから重要である。しかし、花粉の発芽に関わる分子機構は不明な点が多い。応募者は、ホスホイノシチドの一種であるホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(以下PI(4,5)P2と記す)の代謝に関わる酵素をコードする遺伝子群を欠失したシロイヌナズナでは、花粉の発芽が不全となることを発見した。本研究では、このシロイヌナズナ変異体を詳細に調べることにより、花粉の発芽に関わるメカニズムの一端を解き明かすことを目的とする。本年度はPI(4,5)P2代謝酵素の細胞内局在を調べるため、PI(4,5)P2代謝酵素の下流に蛍光タンパク質(YFP)を付加した融合タンパク質を自プロモーターの下流で発現するシロイヌナズナを作製した。作製した形質転換シロイヌナズナの花粉を共焦点レーザー顕微鏡下で観察したところ、融合タンパク質に由来する蛍光は花粉が発芽する前に、発芽の予定位置の細胞膜に観察されることが分かった。また、作製したYFP融合タンパク質をシロイヌナズナ変異体内で発現させたところ、変異体に観察された発芽不全の表現型は野生型のシロイヌナズナと同程度に回復したことから、変異体の表現型はPI(4,5)P2代謝酵素をコードする遺伝子の異常が原因であることが分かった。次に、シロイヌナズナ変異体の花粉を組織化学的な手法を用いて調べたところ、野生株の花粉では観察されるカロースやペクチンの沈着が、変異体の花粉では観察されないことが分かった。これらの結果から、PI(4,5)P2代謝酵素遺伝子の機能は、花粉の発芽に先立ち重要な役割を担うことが明らかとなった。
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