研究実績の概要 |
本研究では、自活性土壌線虫Caenorhabditis elegansをモデル生物として用い、短鎖神経ペプチドFLP(FMRFamide-like peptide)とその受容体が線虫の幼虫生育/休眠を制御する分子機構を解明して局部つき姿勢線虫の防除法開発に資することを目的とする。 本年度は、まず、flp遺伝子破壊線虫を用いたスクリーニングを行い、幼虫生育/休眠に変動を示すflp遺伝子を抽出した。このうち、植物寄生性線虫ネコブセンチュウにも共通する4遺伝子(flp-1, -2, -3, -6)を研究対象とした。これらの遺伝子を過剰発現させたところ、flp-1過剰発現は著しい休眠率上昇を示し、flp-2, -3, -6過剰発現は著しい休眠率低下を示した。そこで、これらの生育/休眠制御機構を主に分子遺伝学的手法を用いて解析した。 ①FLP-1は環境因子である休眠誘導フェロモンに応答し、インスリン様シグナルのリガンドDAF-28の産生・分泌を介して休眠を促進することを明らかにした(学会発表済み)。②FLP-2は環境因子である休眠誘導フェロモンならびに餌に応答し、インスリン様シグナルのリガンドINS-35の産生・分泌を介して休眠を抑制することを明らかにした(学術論文受理済み)。③FLP-3は環境因子である休眠誘導フェロモンに応答し、インスリン様シグナルのリガンドINS-35の産生・分泌を介して休眠を抑制することを明らかにした(学術論文発表)。④FLP-6は環境因子(休眠誘導フェロモンならびに餌)に応答せず常時産生され、インスリン様シグナルのリガンドDAF-28ならびにINS-35の産生・分泌を介して休眠を抑制することを明らかにした(学術論文発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の令和3年度研究計画では、線虫C. elegansの幼虫生育・休眠制御に関わる短鎖神経ペプチドFLP(FMRFamide-like peptide)遺伝子のうち、複数の植物寄生性線虫に共通するflp遺伝子を過剰発現させ、幼虫生育・休眠制御機構の解明の基盤となる安定発現株を構築することを予定していた。加えて、FLPの産生量・分泌量を示すレポーター遺伝子を導入し、環境因子(生育密度のchemical mediatorである休眠誘導フェロモンならびに餌)への応答性を検証することを予定していた。計画通りにネコブセンチュウにも共通するflp-1, -2, -3, -6遺伝子の解析を進めることができた。 さらに、本年度は上記FLPの作用機序に踏み込み、令和4年度の研究計画である生育ホルモン(TGF-betaならびにインスリン様分子)の産生・分泌制御の一端を解明した。結果、3件の学会発表ならびに3編の学術論文発表を達成することができた。 当初計画を遂行し、令和4年度の研究計画の遂行にまで踏み込むことができたことに鑑み、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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