研究課題
申請者は、スプライシング制御因子による生体制御の破綻から生じるスプライシング病について構造生物学的な理解を目的としている。本研究では、脊髄性筋萎縮症の発症ではSF2などの制御因子が関わる運動神経細胞生存遺伝子(Survival motor neuron: SMN)の選択的スプライシングの制御不全が起きている。SF2 RRM1と標的配列を含むRNA断片の複合体を結晶化し、これをX線結晶構造解析することで、SF2タンパク質の標的配列認識機構を明らかにすることを目標とした。また、他のスプライシング因子に含まれる同様の機能ドメインについての構造解析を試み、この機能ドメインによるクロストークに関する知見を得ようと考えた。昨年度までSF2 RRM1と標的配列を含むRNA断片との結晶化を行って微結晶が得られたが、再現性がなかった。本年度は、結晶化の再現性をあげるために、(1)SF2についてアミノ酸配列の保存性とRRM1単体の構造から、RNA結合能を保持しつつ、構造的に柔軟な部分を最小限に抑えたコンストラクトを作成し結晶化を試みた。(2)また、RNA分子間で塩基対を形成させて結晶パッキングを促進させる目的で、ターゲットとなるRNA分子についてRNA分子間で塩基対を形成させて結晶パッキングを促進させるよう細工をしたRNA断片2種類を用いて、RRM1との共結晶化の条件を検討した。その結果、2種類のRNA共に1つの条件下から結晶を得た。現在、さらに結晶化の条件の最適化を進めている。また、真核生物でスプライシング反応において働くRNA結合ドメインとしてはRRMドメインのほかにKHドメインがある。RNAの二次構造部分の変化によるRNA認識を考察するため、結合に一本鎖部分だけではなく、二次構造をとる部分も必要とするRbfAのKHドメインについて構造決定を行い、下記にしめすように投稿論文として発表した。
3: やや遅れている
今年度は、大学としは、一昨年より研究環境規制は緩和された。しかし、実際にはCOVID19の急拡大時期に、研究室にもおおきな影響が表れてしまった。現在は、ワクチンの接種が3回以上になっており、通常の運営状態にもどってきている。今後、遅れを取り戻すように計画を進めていきたいと考えている。
SF2 RRM1を用いたRNAとの複合体解析では、タンパク試料の安定性、およびRNAとの複合体の結晶化について検討を加えていく必要があった。本年度は、この蛋白質のコンストラクトの変更などによって安定的な供給条件の検討を進めており、この検討を継続する。また、安定的な蛋白質試料の調製法として無細胞蛋白質合成系によるタンパク試料の調製を試みており、さらに構造解析に最適な蛋白質試料の調製について検討をすすめる。また、これらの因子は,RRMドメインというRNA結合ドメインを共通にもつが、スプライシング反応が進行する上で、他の機能ドメインも機能発現に必要な場合がある。そのため、このような因子についてもクロストークを起こす可能性がある因子についても、構造的な情報を得て、これらの因子の協働性について考察していく。
2022年度は、COVID19の急拡大により研究活動におおきな影響があり、実験進行にかなりの遅延が生じた。このため消耗品の消費が遅れ、消耗品については、酵素や培養実験材料など、利用状況によって購入するために、実験の遅延とともに消耗の遅れが生じ、予算消化の遅れに繋がっている(とくに無細胞合成系に関する支出について)。これらの予算については、2023年度に回して、実験の進行とともに使用する予定である。
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Biomol NMR Assign.
巻: 16 ページ: 297-303
10.1007/s12104-022-10094-3.