LC-MS/MSを用いてN-リノレノイルグルタミン(LA-Gln)の分析を行ったところ、内生量に差はあるものの、シロイヌナズナ、ダイズ、トウモロコシ、ナス、トマトなど調べたすべての植物からLA-Glnが検出された。従って、LA-Glnは植物に普遍的に存在することが明らかとなった。 大腸菌を用いてシロイヌナズナのGH3.15の組換えタンパク質を作成した。組換えGH3.15は、α-リノレン酸とグルタミンを基質としてLA-Glnを合成することが明らかとなり、GH3.15がLA-Glnの合成に関与することが示された。また、GH3.15によるLA-Gln合成反応の至適pHは8.5で至適温度は35℃であった。GH3.15に対するアミノ酸の基質特異性を調べた結果、ヒスチジンが最も基質特異性が高く、グルタミンは4番目に基質特異性が高かった。GH3.15に対する脂肪酸の基質特異性を調べた結果、植物が生産する主な脂肪酸とα-リノレン酸の間には大きな基質特異性の違いはなかった。シロイヌナズナのGH3.15遺伝子欠損株のLA-Gln量は、野生株に比べ低下しており、GH3.15が植物体内でもLA-Glnの生成に関与していることが明らかとなった。 LA-Glnのシロイヌナズナの生育に対する影響を調べた結果、100μMのLA-Gln は根の伸長を阻害したが、地上部の生育にはほとんど影響を与えなかった。シロイヌナズナに100μMのLA-Gln 処理を行ったところ、傷害ストレスに関与する植物ホルモンの1種のジャスモン酸量が増加したため、傷害ストレス応答とLA-Glnの関連性が示唆された。100μMのLA-Gln 処理および無処理のシロイヌナズナとの二次代謝産物をHPLCで分析したが、大きな違いは確認されなかった。本研究の結果、LA-Glnは植物内生のシグナル物質であることが示唆された。
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