糸状菌由来アミノアシルtRNA合成酵素に付随したドメインとして発見されたAspRS-DUF2156(ErdS)は、新規のステロールアミノ酸誘導体であるエルゴステリルアスパラギン酸(Erg-Asp)をtRNA依存的に生合成することが発見された。また、aaRSに付加していないDUF2156単独の酵素であるErgSも見出され、ergosterolにグリシンを付加しエルゴステリルグリシン(Erg-Gly)を生合成していることが判明した。麹菌Aspergillus oryzaeにおいて、erdSやergS欠損株では分生子量の減少と菌核形成の促進が観察され、Erg-AspやErg-Glyは糸状菌の生殖に関与することが強く示唆された。そこで、化学合成したErg-AspやErg-Glyを菌体外から投与し、同様の表現系が観察されるかどうかを調べた。A. oryzaeにおいては,Erg-Asp添加条件で40%の分生子形成促進が確認された。一方,A. nidulansではErg-Asp添加条件で37%の分生子形成抑制というA. oryzaeとは相反する結果が得られた。また,Erg-GlyではA. oryzaeにおいて分生子および菌核形成の抑制傾向が見られた。さらに,気中菌糸が過剰に形成された表現型が確認された。次に,Erg-AspとErg-Glyのアフィニティークロマトグラフィー(AFC)による相互作用タンパク質の探索を目指し,Erg-AspおよびErg-Glyをセファロースビーズに結合したカラムの合成を試みた。得られたビーズを用いたAFCを行ったが,相互作用タンパク質は見出されなかった。また、コムギ赤カビ病菌Fusarium graminearumにおいてもFgerdS破壊株では分生子量が約4割程度にまで減少し,コムギ子葉鞘を用いた感染実験において,病原性の低下が確認された。
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