研究課題/領域番号 |
21K05410
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
落合 秋人 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (40588266)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ディフェンシン / 抗菌ペプチド / 作用メカニズム |
研究実績の概要 |
現在使用されている抗真菌薬は、その作用メカニズムにおいて類似していることから、さらなる有効な新薬が必要とされている。研究代表者は、既存の抗真菌薬とは異なるメカニズム、即ちアポトーシスを誘導することにより真菌を殺菌するペプチドOsAFP1をイネから見出した。また、研究計画1年目までに、元ペプチドと同様のメカニズムにより強い抗真菌作用を示すpeptide-8派生ペプチドを見出した。本研究課題においては、口腔内感染症に対する新しい治療法を開発するための基盤技術の構築を目指す。研究計画2年目において、以下に挙げる成果を得た。 [1] OsAFP1由来ペプチドの抗真菌作用メカニズムの解析……トランスクリプトーム解析において、発現変動が大きい遺伝子の欠損酵母を用いて抗真菌活性試験を行った結果、MICが大きく変動した発現増加遺伝子は8個、発現減少遺伝子は2個だった。それらのうち、金属イオン輸送に関わる遺伝子は2個、酸化ストレスからのシグナル伝達に関わる遺伝子は4個含まれ、このうち4遺伝子の翻訳産物は細胞膜周辺に局在した。殺真菌活性試験の結果も考慮すると、このペプチドは、細胞膜への相互作用をきっかけに金属イオンの取り込みやROS産生による酸化ストレスのシグナル伝達を促進してアポトーシスを誘導することが示唆された。 [2] peptide-8ベースの新規抗真菌ペプチドの創生……研究計画1年目までに、より高活性なpeptide-8派生ペプチドを得た。赤血球に対する溶血試験により、このペプチドはMICの8倍濃度まで溶血作用を示さず、安全性に優れることが期待された。また、脂質結合試験により、このペプチドはOsAFP1同様に細胞膜内に存在するリン脂質の一種であるPI(3)Pに結合することがわかった。このPI(3)Pと直接相互作用するアミノ酸残基が活性の向上に重要であると考え、さらに解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究計画[1] OsAFP1の抗真菌作用メカニズムの解析において、予定していた酵母の非必須遺伝子欠損株を用いた解析がほぼ終了し、トランスクリプトーム解析の検証実験も進んでおり、目的の多くが既に達成されつつある。一方で、研究計画[2] peptide-8ベースの新規抗真菌ペプチドの創生においては、当初の予定どおりOsAFP1の活性に匹敵する高活性な短鎖ペプチドを得ており、その安全性や安定性などをなど検証して抗菌剤への応用を見据えた基盤研究を進めている。一方でX線結晶解析などを用いた構造生物学からのアプローチはやや遅れている。PI(3)P との相互作用に関わるアミノ酸残基を特定し、その役割を解析することにより抗真菌メカニズムの解明および活性の向上につなげる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画[1]において、peptide-8派生ペプチドを用いたトランスクリプトーム解析の結果から、鉄、銅、亜鉛などのいくつかの金属イオン輸送関連遺伝子の発現が変動したことがわかった。これらの結果は、このペプチドが真菌細胞壁に作用し、細胞内外のイオン輸送に影響を及ぼすとともに、シグナル伝達経路に影響を及ぼすことが示唆された。そのため、今後はペプチドの抗真菌活性にこれら金属イオンが及ぼす影響を細胞レベルで観察する。 研究計画[2]においては、やや遅れているNMRおよびX線結晶構造解析を用いた構造生物学的解析から、peptide-8派生ペプチドとPI(3)Pとの相互作用の解析し、PI(3)P との相互作用に関わるアミノ酸残基を特定することにより抗真菌活性の向上を試みる。また、予備的な解析から、peptide-8派生ペプチドは高濃度の塩存在下において活性を失うことがわかった。今後は、このペプチドの配列をさらに最適化することにより耐塩性の向上も目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】一昨年度に予算計上した備品が購入不能になったことから、代替物品の購入を進めている。この備品分を除いて、研究計画2年目の使用計画はほぼ予定通りである。 【使用計画】最終年度は、研究計画2年目と同様に、短鎖ペプチドのペプチド合成、微生物やヒトHEK細胞の培養に使用する器具・試薬、変異体タンパク質の調製に使用するDNA関連試薬、構造生物学的解析に必要な器具・試薬、およびX線回折データの取得のための大型放射光施設への旅費に予算を充てる。
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