研究課題/領域番号 |
21K05411
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
岡 夏央 岐阜大学, 工学部, 准教授 (50401229)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ドミノ反応 / シクロペンテン / シクロヘキセン / Julia-Kocienskiスルホン / 核酸 / 糖 / 立体選択的 / 不飽和環状炭化水素 |
研究実績の概要 |
我々は、ヌクレオシドの5′位水酸基をヘテロアリールスルホニル基で置換したJulia-KocienskiスルホンをDBUなどの塩基で処理すると、ドミノ反応が起こり、核酸塩基が結合した光学活性シクロペンテンが生成することを見出している。加えて、チオールやチオカルボン酸の存在下本反応を行うと、核酸塩基がチオ基で置換されたシクロペンテンが生成することも見出した。本研究は、1)この新規ドミノ反応が5員環糖や6員環糖由来のJulia-Kocienskiスルホンに適用可能か、2) どの様な求核剤が導入可能か、の2点について検証し、幅広い光学活性不飽和環状炭化水素の立体選択的合成法へと発展させることを目的としている。 まず、1位にアセトキシ基や2,2,2-トリフルオロエトキシ基をもつJulia-KocienskiスルホンをD-リボースから合成し、チオ酢酸、DBUと反応させたところ、アセチルチオ基が完全なシス選択性で導入されたシクロペンテンが高収率で得られた。このことは、本ドミノ反応が5員環糖由来のJulia-Kocienskiスルホンに適用可能であることや、アセトキシ基や2,2,2-トリフルオロエトキシ基が1位の脱離基として働くことを示している。加えて、6-クロロプリンなどの非天然型核酸塩基が求核剤として働き、シクロペンテン環上に導入できることも見出した。このことは、求核剤として含窒素芳香族複素環が有用であることも示された。更に、L-リボース、グルコース、マンノースからJulia-Kocienskiスルホンを合成し、同様のドミノ反応に用いたところ、目的とするシクロペンテン、シクロヘキセンが良好な収率、ほぼ完全なシス選択性で得られた。即ち、本反応が6員環糖由来のJulia-Kocienskiスルホンにも適用可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、令和3年度の目標として、1) 本ドミノ反応の5員環糖への応用、2) チオールやチオカルボン酸以外の求核剤の導入、以上の2点を想定していた。1) については、D-リボース、L-リボースからJulia-Kocienskiスルホンを合成し、共にドミノ反応によってシクロペンテンへと変換されることを見出した。この時、検討課題として挙げていた糖1位の脱離基として、アセトキシ基や2,2,2-トリフルオロエトキシ基が有用であることも見出している。2) については、6-クロロプリンなどの非天然型核酸塩基が求核剤として働き、シクロペンテン環上に導入できることも見出した。このことによって、硫黄求核剤だけでなく、窒素求核剤がシクロペンテン上に導入可能であることも示された。この様に、当初想定していた目標は2つとも達成することができた。加えて、2年目以降の計画に掲げていた6員環糖への応用について予定より早く着手することができ、グルコース、マンノースから誘導したJulia-Kocienskiスルホンがドミノ反応によって1段階でシクロヘキセンへと変換されることを見出した。以上の成果を考えると、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、リボースで得られた知見を他の5員環糖へ応用し、幅広い光学活性シクロペンテン誘導体の合成法へと発展させる。その際、アラビノースなどのアルドースに加えて、ケトースを出発物質として用いることで、ケトース由来のアルキル基が導入されたシクロペンテン誘導体の合成を試みる。加えて、求核剤の適用範囲についても更に調査し、様々な官能基が導入されたシクロペンテン誘導体の合成を試みる。また、グルコース、マンノースで得られた知見を他の6員環糖へと応用し、幅広い光学活性シクロヘキセン誘導体の合成法へと発展させる。5員環糖で用いた求核剤を適用することで、導入可能な置換基の拡大を試みる。 次に、合成したシクロペンテン、シクロヘキセンの炭素-炭素二重結合への付加反応などを通じて様々なシクロペンタン、シクロヘキサン誘導体を合成する。この様な多置換シクロペンタン、シクロヘキサンは、カルバ糖誘導体として、糖加水分解酵素などの糖鎖関連酵素に対する阻害活性が期待される。そこで、これらの阻害活性について評価し、糖鎖関連酵素を特異的に阻害する化合物の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、リボース、グルコース、マンノースなどの安価な糖を原料とする合成、反応条件検討を中心に行ったため、有機合成化学用試薬を購入するための費用が、当初の予定より少なくなっている。今年度は、より希少で高価な糖への適用可能性についても調査を始めるため、昨年度未使用分も含めて有機合成化学用試薬の購入費に充てる予定である。加えて、合成を進めるために必要な有機合成化学用ガラス器具や薄層クロマトグラフィー用プレート当の消耗品費、研究成果発表のための学会参加・出張費などに使用する。
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