研究課題/領域番号 |
21K05415
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
福澤 信一 中央大学, 理工学部, 教授 (50173331)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 環化付加反応 / 共役付加反応 / ピロリジン / ピロリジジン / イミノエステル / アゾメチンイリド |
研究実績の概要 |
独自のThioClickFerrophos配位子と銀塩との錯体を触媒に用いて,Morita-Baylis-Hilmann付加物(ヒドロキシメチルアクリル酸エステル)と鎖状および環状イミノエステルとの不斉付加反応を研究した。鎖状イミノエステルとの反応では,1,3-双極子環化付加反応が進行し,対応する三置換ピロリジンがほぼ単一のジアステレオマーとして生成した。このときのピロリジンの4位のエステル基と5位のアリール基の立体化学はcisであり,4位の4級不斉炭素が立体選択的に構築されている。4級不斉炭素は天然物などの生物活性化合物に重要な構成単位であるが,立体選択的に構築する手法が求められる。本反応により4級不斉炭素が容易に構築できたことは研究成果として評価できる。また,生成物が最大98%エナンチオマー過剰率で得られることから,エナンチオ選択性は非常に良好である。なお,独自のThioClickFerrophos以外のフェロセニルキラルホスフィン配位子を用いてもエナンチオ選択性は低かったことから,独自の配位子の優位性が明らかとなった。 一方,環状イミノエステル(2-ピロリンエステル)との反応では,共役付加反応ー脱離反応が進行しMorita-Baylis-Hilman付加物のアセトキシ基の脱離を伴った末端にアクリル酸エステル基を持つ生成物が生成した。この反応では,ピロリン環の5位に不斉炭素が生成するが,独自の配位子を用いると最大92%のエナンチオマーか乗率で生成物が得られた。この生成物のピロリン環のイミノ基をシアノ水素化ホウ素ナトリウムで還元を行うと,生成したピロリジンのアミノ基がアクリル酸エステル基の二重結合に連続して分子内共役付加し二環式アミンのピロリジジンが生成した。この際,立体化学は保持されていることが分析結果より支持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Morita-Baylis-Hilman付加物としてヒドロキシメチルアクリル酸エステルとイミノエステル(アゾメチンイリド)の反応を研究し,鎖状イミノエステルとの反応では1,3-双極子環化付加反応が,また環状イミノエステルとの反応では共役付加ー脱離反応が,それぞれ高収率・髙立体選択的に進行し多様なピロリジン誘導体を合成する手法に成功した。鎖状イミノエステルとの反応では構築が容易でない4級不斉酸素を立体選択的に構築できた意義は評価できる。また,環状イミノエステルとの反応で,ピロリン環の還元で生成したピロリジンが連続してアクリル酸エステル末端へ共役付加することで二環式アミンであるピロリジジンを構築できたことは,本計画の目指すハイブリッド分子合成に新たな手法を提供できると思われる。 上の反応を展開するために,Morita-Baylis-Hilman付加物としてニトロアリルアセテートとの反応に関しても研究した。環状イミノエステルとの反応では,上の反応と同様に共役付加ー脱離反応が進行し,独自の配位子と銀塩との錯体触媒を用いると生成物のジアステレオおよびエナンチオ選択性は非常に良好である。生成物は末端ニトロアルケン基を有し,これを活かした変換反応を現在研究中であるが,ブチルアミンなどの求核種はニトロアルケン部位に共役付加し,次いで分子内のエステル基とアミドーエステル交換反応して二環式ラクタムが生成する知見を得ている。ピロリン環のイミンの還元も検討中であるが,反応条件によってイミノ基だけでなくニトロ基の還元が伴う場合があり,反応条件による多様な生成物の合成の可能性が示唆されている。生成物の立体化学が確定していないので,分光学的手法により立体構造を明らかにすることが今後の課題である。 以上,今後の研究についていくつか課題が残されているが,概ね研究は順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
独自の銀錯体触媒を用いて,環状イミノエステルとニトロアリルアセテートとの反応を推進する。この反応生成物は末端ニトロアルケンがあるのでMichael受容体として活用する分子変換を計画する。ブチルアミンと共役付加反応・連続する分子内アミドーエステル交換反応により二環式ラクタムを与えるが,この生成物の立体化学を分光学的手法で明らかにする。 上記の反応生成物のピロリン環のイミノ基の還元によるピロリジンへの変換と,連続するニトロアルケンへの分子内共役付加により二環式アミンであるピロリジジン環構築へと展開する。イミノ基の水素化の立体化学を反応剤や触媒等でコントロールし,立体多様なピロリジン環の構築を目指す。 イミノニトリル基との反応は,ニトリル基は金属錯体へのキレートが生成しにくいため反応の立体化学のコントロールが難しいとされている。一部の研究例は報告されてはいるが求双極子のアルケンが限定的である。ニトリル基は加水分解によるカルボン酸への変換だけでなく,還元によりアミノ基へと変換できるので多様なハイブリッド分子を合成する中間体として魅力的である。イミノニトリルとの反応に関して研究を遂行する予定である。 従来の平面的な2Dドラッグに対して,ユニークな生物活性が期待される立体的な3Dドラッグが注目されている。スピロ環は代表的な3Dドラッグの基本骨格であり,アゾメチンイリドとエキソメチレン化合物との1,3-双極子環化付加反応で合成できる。しかし,二次元的なピロリジン環に比べスピロピロリジンの立体化学をコントロールすることは容易ではない。その理由は,立体化学が反応の遷移状態の安定性だけでなく生成するスピロ環の3次元構造の安定性により決まるからである。触媒の構造や活性と反応に用いるイミノエステルとエキソメチレン化合物の組み合わせを検討し,立体選択性のコントロールと多様性の達成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究調査および発表旅費を予定していたが,コロナ感染予防で学会がオンライン開催となったため出張の必要がなくなった。そのため,旅費の使用がなかったが,感染症が収束して対面での学会開催が行われるようになったら,研究調査・発表に出かける予定である。 独自の触媒の合成原料である市販のキラルフェロセンが在庫切れで入手できなかったので,フェロセンを原料に,市販のキラル反応剤を用いながら自らキラルフェロセンの合成を行った。市販の化合物を購入するよりも経費は4-5分の1程度で済んだが,一方で独自の触媒調製に倍以上の時間を要してしまい,研究の迅速性が損なわれてしまった。今年度は,市販品の確保に努め効率よく迅速に研究を推進する予定である。市販品の確保ができない場合は, 反応生成物の単離生成は,通常,分取用薄層クロマトグラフィーを用いて行っていた。これに使用するシリカゲルがメーカーの都合で販売中止となり,研究の途中からカラムクロマトグラフィーによる単離生成に切り替えた。カラムクロマトグラフィー用のシリカゲルは薄層クロマト用に比べ価格は4-5分の1程度であり,ここでも費用は抑えられた。しかし,迅速性を優先し今後はフラッシュカラムクロマトグラフィー用の高性能かつ高価なシリカゲルを使用し,短時間に効率よく生成物の単離生成を行ってゆく。
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