研究課題/領域番号 |
21K05415
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
福澤 信一 中央大学, 理工学部, 教授 (50173331)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アゾメチンイリド / 環化付加反応 / 共役付加反応 / イミノニトリル / 銀錯体 / ClickFerrophos / スピロピロリジン / スピロピペリジン |
研究実績の概要 |
1. 鎖状イミノニトリルをアゾメチンイリド前駆体として利用する1,3-双極子環化付加反応 イミノエステルをアゾメチンイリド前駆体として利用する反応では,金属錯体触媒とイミノ基の窒素原子とエステル基のカルボニル酸素原子との二座配位構造をとり,これが立体制御を行うのに重要な役割を果たしている。一方,イミノニトリルでは金属錯体は窒素原子にしか配位子しないので,配位子の構造が反応の立体選択性の鍵になる。本研究で,独自のClickFerrophos配位子と酢酸銀を触媒に用いたところ,フマール酸エステルとの反応においてendo環化付加生成物がエナンチオ選択性良く生成することを見つけた。さらに,独自配位子ThioClickFerrophos(P,S型配位子)を用いると,このエナンチオマーが生成した。二つの配位子の面不斉は同一であるので,リン原子をイオウ原子に変えただけで生成物の立体化学が反転することが明らかとなった。 2. 環状イミノニトリルをアゾメチンイリド前駆体として利用する共役付加反応 ThioClickFerrophosの銀錯体を触媒に用いて,環状イミノニトリルとαーエノンとの反応を検討した。共役付加反応が収率良く進行した。この際,イミノ基と側鎖置換基の立体化学が問題となるが,ほぼ単一のジアステレオマーが生成していることがNMR等の分析結果から明らかとなった。銀塩としてフッ化銀が最も効果的で,高い収率と立体選択性をもたらした。環状イミノニトリルの置換基やαーエノンの電子的および立体化学的性質に対する影響は限定的であり,反応基質の適用範囲は広く,チオフェンなどのヘテロ環および脂肪族化合物も使用できる。 生成物のニトリル基はRaneyニッケルを触媒に用いて還元され立体化学保持で,対応するスピロピペリジンが生成した。これは,ピロリジンとのハイブリッド型のスピロ環として興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 鎖状イミノニトリルをアゾメチンイリド前駆体として用いる1,3-双極子環化付加 イミノニトリルをアゾメチンイリド前駆体として用いる1,3-双極子環化付加の成功例は,これまでに一例しか報告されておらず,しかも反応基質はフマール酸エステルに限定されていた。反応の鍵は配位子と設定して研究を開始したが,環化付加反応に頻繁に用いられている代表的な配位子を数種類試したが,ジアステレオ選択性(endo, exo選択性)が低い問題は解決できなかった。しかし,独自のClickFerrophosおよびThioClickFerrophosを用いて,銀触媒反応を検討すると,反応のジアステレオ選択性とエナンチオ選択性が良好であることが分かった。しかも,同じ面不斉のClickFerrophosとThioClickFerrophosを用いているにもかかわらず,生成物の立体化学は反転するという興味深い結果も得られた。同一の立体化学を有するキラルフェロセンから調製できる配位子から,異なる立体化学の生成物の合成が可能になる,すなわち,本研究計画の目指す立体多様性合成に合致した結果となったことから順調に進展していると判断される。 2. 環状イミノニトリルとαーエノンとの反応は,共役付加反応であるが,単一のジアステレオマーが生成し,ジアステレオ選択性に問題は無かった。エナンチオ選択性に関しても,フッ化銀を用いることで選択性の向上を改善できた。反応の基質適用範囲も広く合成化学的な制限はない。ニトリル基の還元はRaneyニッケル触媒による水素化により達成でき,ラセミ化を起こさずに進行し,スピロピペリジンが収率良く生成した。本研究の目指す,ピロリジンーピペリジンハイブリッド分子を合成できたので,順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1. アゾメチンイリドとイリデン化合物との反応により,スピロ型ハイブリッド分子の合成 環状イミノニトリルとの反応で,スピロピペリジンの合成が達成できた。スピロ環は三次元的な化合物であり,平面型の化合物と比べてユニークな生物活性が期待できる。しかも,異なる二つのヘテロ環とのハイブリッド化は,ドラックディスカバリーに多様性をもたらす有効な手法となる。スピロ型のハイブリッド分子合成としてイリデン化合物とアゾメチンイリドとの1,3-双極子環化付加反応に一部着手した。イリデン型のアルケンとの反応は,スピロ中心が四級不斉炭素となるため,立体化学の制御が重要な課題となる。環状アゾメチンイリドとの反応で,四級不斉炭素の立体化学を制御するのに独自のThioClickFerrophos銀錯体触媒が有効な触媒である知見を得ている。従って,この触媒を用いて,初期検討として,ベンジリデンジオキソピロリジンとの反応を行った。興味深いことに,ピロリジン環の2位のエステルと3,5位の置換基がtransであるexo'ジアステレオマーが優先して生成する。この知見を生かし,アルキリデンピラゾロンやアルキリデンイソオキサゾロンなど他のイリデン型活性アルケンとの反応を検討し,生成物のハイブリッド化と立体多様性に関して研究を行う。 アルキリデン型化合物として,軸不斉を持つN-アリールコハクイミドとの反応を研究する。この反応の生成物は中心不斉だけでなく,C-N軸不斉を持つので,さらなら立体多様な分子が構築できる。生成する軸不斉分子は新たな生物活性分子として期待できる。 2.鎖状 イミノニトリルとの1,3-双極子環化付加 2022年度の研究で明らかとなった,キラル配位子による立体多様性の一般性を探るために,種々の活性アルケンとの反応へと展開する。またその原因を計算化学の手法により解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で,各種学会がオンライン開催となり出張する必要が無く,旅費等に関する経費が不要となった。対面型の学会発表が再開されるようになったら,出張旅費を使用して出張する予定である。 実験機器類およびそのパーツが故障して修理の必要があったが,機器類を新規購入する場合と支払額の差が小さく,修理するか新規購入か躊躇した。このための判断に時間を費やし,物品の発註が予算年度内に間に合わなかったことも予算額に差額が生じた一因である。予算を物品の新規購入に充当する予定である。
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