研究課題/領域番号 |
21K05416
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
伊藤 晋作 東京農業大学, 生命科学部, 准教授 (70608950)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ダイズシストセンチュウ / 植物寄生線虫 / 誘引物質 / RNAi |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度解析したGCYとTAX-2遺伝子についてより詳細な解析を行なった。 公開されているダイズシストセンチュウゲノムからGCYのホモログを検索したところ3つのホモログを見出した。二期幼虫での発現量を確認したところ、どれもGCYに比べて発現量が低かったこと、GCYをRNAiで発現抑制した際の3種のホモログの発現量は変化なかったことから二期幼虫でGCYが主要な機能を担っていると予想された。続いてダイズシストセンチュウと近縁のジャガイモシストセンチュウおよび同じ植物寄生線虫であるサツマイモネコブセンチュウでホモログを探索し、同様にRNAiで発現抑制を行なった。発現抑制体での宿主根への誘引を確認したところ、どちらもGCYを発現抑制した個体では宿主根への誘引率が低下していたことから、GCYは他の植物寄生線虫でも宿主認識に重要な遺伝子であると考えられた。サツマイモネコブセンチュウは糖や塩類などさまざまな物質に誘引されることが知られており、また種子ムシゲルやポリアミンが植物由来の誘引物質として知られている。GCY発現抑制ネコブセンチュウを用いてこれらの物質への誘引活性を評価した結果、ポリアミンへの誘引活性のみ顕著に低下していることを見出した。以上の結果からGCYはネコブセンチュウの宿主認識においてポリアミンの認識に重要な遺伝子であることが明らかとなった。また、GCYを用いた化合物スクリーニング系構築のためにGCYの動物細胞での安定発現株の構築を開始し安定発現株を得た。 TAX-2発現抑制ダイズシストセンチュウを用いて、さまざまな宿主根への誘引活性を評価したところ、全ての宿主根への誘引が低下していた。さらに高温や低温への忌避活性、硝酸イオンへの誘引活性もTAX-2発現抑制体では低下していたことから、TAX-2はC.elegansと同じく種々の行動を制御する遺伝子であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はGCY遺伝子がダイズシストセンチュウのみならず、他の植物寄生線虫でも宿主認識特異的に機能することを見出した。さらにサツマイモネコブセンチュウにおいては宿主由来の誘引物質の一つであるポリアミンへの誘引に特異的に関与することを見出すことができた。この結果は本研究の当初の目的であるダイズシストセンチュウ宿主認識機構の解明やそれを用いた行動制御技術の確立が他の植物寄生線虫でも応用可能であることを示す大きな結果である。また、少なくともネコブセンチュウでは宿主を認識する際に多様な物質を複数の異なる経路で受容、情報伝達していることを示している。加えて、GCYの下流で働くと予想されるTAX-2はダイズシストセンチュウの宿主認識のみならず、化学走性、温度走性にも関与しており、ダイズシストセンチュウ誘引行動の調節因子として働いていることを見出すことができた。 以上の結果から、本年度の研究は概ね順調に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
GCY発現動物細胞を用いて化合物スクリーニング系を構築する。構築後は化合物スクリーニングを開始し、センチュウ行動を制御可能な新規化合物の同定を目指す。また、GCYやTAX-2の遺伝子発現抑制がセンチュウ防除につながるかを確かめるためにポット試験を行なっていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度開催された多くの学会もオンライン開催や東京などの近辺での開催であったため旅費の使用額は想定よりも安くすんだ。また、物品費に関しても前年度同様に消耗品をより安価な代替品に変更したため次年度使用額が生じた。次年度は国際学会などもオンサイトで開催されるためその発表旅費やRNAseqなどの網羅的発現解析に利用する。
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