重症急性呼吸器症候群 (Severe Acute Respiratory Syndrome、SARS) は、21世紀初の新興感染症であり新種のコロナウィルス (SARS-CoV-1)が発症の原因である。2019年の初の報告以来、流行を繰り返しているCOVID-19の原因ウイルスは同種のSARS-CoV-2であることが報告されている。現在、ワクチンは開発済であり、いくつかの治療薬は使用可能になっている。しかしながら、いずれの治療薬も制限が多く課題も多い。SARS CoVの増殖にはSARS 3CLプロテアーゼを必須とし、両ウイルス間で本酵素の配列と立体構造は酷似している。従って、SARS 3CLプロテアーゼ阻害剤は有望な抗SARSならびに抗COVID-19薬の標的となりうる。 本研究課題では、既に報告したSARS 3CLプロテアーゼの基質配列に基づくペプチド型阻害剤から構造展開した低分子型阻害剤であるデカヒドロイソキノリン型阻害剤の合成が最大の課題である。昨年度までは、活性向上の鍵となるデカヒドロイソキノリン骨格4位の置換基導入の足掛かりとなる置換基導入の検討と別途、分子設計していたデカヒドロイソキノリンのアミド置換基を移動した阻害剤候補分子の合成を行った。本年度は、まず、デカヒドロイソキノリン骨格4位の置換基導入の足掛かりとなる置換基を、マイケル付加型反応での導入を行った。現在、その後の合成を進めているところである。別途、分子設計していた阻害剤候補分子はサンプル量が不足したことから再合成を進め、阻害剤前駆体までの合成を完了した。 これらの結果について、研究分担者と共同発表で日本農芸化学会2024年度大会ならびに第60回ペプチド討論会にて学会発表した。研究期間では合計5件の学会発表を行っており、内1件は学会のトピックス賞に選出され、注目の高さが伺える。
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