研究課題/領域番号 |
21K05421
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
柳瀬 笑子 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (60313912)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カテキン / テアルビジン / 紅茶 / LC/MS |
研究実績の概要 |
本研究は、紅茶製造過程で生成するテアルビジン類の構造解明を最終目的として行っている。テアルビジンはカテキン類の重合体であるといわれており、多くの推定構造が提案されているものの、未だ明確な構造は明らかにされていない。その原因は、テアルビジンがHPLC分析やNMRにおいて“瘤状”に観測され、分離・構造解析が困難なことにある。本研究では、紅茶加工中における成分変化を「化学反応」と位置付け、反応中間体の構造やその反応性を明らかにすることでテアルビジンの構造解明を目指している。本年度は、紅茶加工サンプルを段階ごとに採取しLC/MS分析を行い、得られたデータを用いて多変量解析を行った。その結果、主成分分析(PCA)では製造過程ごとにクラスターを形成している様子が明らかになった。また、ローディングプロットより、製造過程の進行とともに増加している化合物を検出した。これらの化合物は、揉捻・発酵過程でカテキン類が減少するのとは反対に揉捻・発酵過程にかけて増加していた。その中で、特にカテキン2量体に相当するm/z 500-1000の化合物を抽出し、MS / MS測定を行った。その結果、カテキン類に特徴的なフラグメントパターンが確認できたことから、これらの化合物はテアルビジン生成中間体の可能性があると考えられた。 次に、市販のポリフェノールオキシダーゼを用いて4種カテキン類を酸化し、紅茶加工中に検出された化合物の生成の有無について検討した。その結果、26種中10種について溶出時間及びLC/MS/MS結果が一致した。さらに、2種カテキン類の組み合わせにより、それらがどのカテキン類から生成しているかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、テアルビジン生成中間体の候補化合物の選抜を計画していた。茶業振興センターにおいて4月末、6月末、8月下旬の茶葉を使用して紅茶の試験製造を行っていただいた。各加工段階(萎凋、揉捻、発酵、乾燥)のサンプルを採取してLC/MS分析を行った。得られたデータについて多変量解析を行うことで、特に揉捻後期から発酵にかけて増加する成分の探索を行った。変化の大きかった成分のうち、以下の4点の基準、①カテキン類の減少とよい相関がある、②テアルビジン中間体であることを考慮し、カテキン2量体相当(m/z500-1000)、③LC/MS/MS分析により、カテキン類特有のフラグメントピークが検出される、④収穫時期の異なるサンプルにおいても共通して検出されている、を設定してピークの選択を行った。その結果26種類のピークに絞ることができた。これらのピークのうち10種類については、カテキン類を市販のポリフェノールオキシダーゼで酸化することにより生成することがLC/MS及びMS/MSによって確認できた。これらのうち比較的多く生成する成分については、現在までに単離精製が完了しており、構造決定を行っているところである。これらのことから本年度の目的については、ほぼ予定通り進行していると考える。今後は、そのほかの成分についても順次、単離構造決定を行いたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
R4年度は、昨年度にテアルビジン中間体候補化合物として選抜した成分について、順次構造決定を行うことを目標とする。さらに年度後半には、構造決定した化合物について以下の2点に注目して研究を進めることで、テアルビジンの構造情報を得る。 ①反応性の評価:構造決定した化合物の酸化条件下における化学変化を明らかにする。これらの候補化合物が生成中間体であるならば、重合化が進みテアルビジンへと変化するはずである。この酸化反応で得られる生成物に関しても、単離構造決定を行い、反応メカニズムの解明につなげる。 ②構造決定した化合物の生成メカニズムの考察:紅茶中のカテキンの2量体として知られるテアフラビン類等と異なる様式の結合形成がテアルビジン生成の鍵であると予想している。構造決定において「新たな結合様式」を持つ化合物が得られた場合は、カテキン類やその類縁体を用いたモデル酸化反応を行い反応メカニズムについて検証する。
また、現在選抜した化合物の紅茶製造過程における生成の再現性の確認やそれ以外の成分の発見のために、本年度についても岐阜県揖斐郡池田町茶業振興センターにて紅茶の試験加工を行っていただき、昨年度同様にLC/MS分析及び大変量解析を用いた評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
来年度は、今年度選抜したテアルビジン中間体候補化合物の化学構造の決定を行う。構造決定には純粋な化合物が多く必要であり、材料となるカテキン類の購入や分離精製のためのHPLCカラムの購入が必要になる。さらに構造決定には1次元及び2次元NMR、LC/MS/MS解析など長時間の機器使用が必要である。本年度の残金と翌年度に申請している経費についてはこれらの消耗品購入費及び機器分析使用料に充てたい。
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