研究課題/領域番号 |
21K05430
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大槻 崇 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (30401011)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大豆イソフラボン / HPLC / RMS / 1H-qNMR |
研究実績の概要 |
食品の機能性や安全性への消費者の関心は非常に高く,食品中の様々な成分,有害汚染物質などを対象とした分析法が開発,利用されている.これらの定量分析では,LCを用いることが多いが,汎用される紫外可視分光検出器や多波長検出器の検出原理は,測定対象固有のモル吸光係数に依存しているため,定量には測定対象と同一かつ純度が正確な定量用標品が必要である.しかし,食品関連成分は多様なため,定量用標品の入手が商業的に困難な場合や入手できたとしても価格や純度の点で問題も多く,この標品の入手に関する制約が食品関連成分の正確な分析や分析法の確立において大きなボトルネックとなっている.食品関連成分の分析は,前述した定量用標品の問題のほかに,試料によっては煩雑な前処理,低回収率などの問題に直面するケースも多く,現状,食品関連成分に対する有用な定量分析法が完全に確立されているとは言いがたい.こうした従来の分析法の限界は,食品の品質や安全性を評価・保証する上で解決しなければならない大きな課題である.そこで,上記で示した問題を克服するため,「1H-qNMRに基づく計量学的に正確な相対モル感度(RMS)」を用いた測定対象の定量用標品を必要としない食品関連成分分析法を確立することを目的に検討を実施する. 2022年度は,女性ホルモン様の作用を示すことが知られており,循環器系疾患などの慢性疾患の予防や更年期障害の緩和,骨粗鬆症の予防効果等があると考えられている大豆イソフラボン12種を対象に,本法の有用性を評価した.その結果,ゲニステインを基準物質として選択し,これら基準物質に対する各測定対象物質のRMSを明確にした.また、大豆イソフラボンを含有する食品(サプリメント)の定量において,RMSを用いた分析法は従来法の定量値と有意な差はないことが判明し、本法は効率的かつ正確に測定対象物質の定量を可能とすることが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は,食品関連成分のうち,大豆イソフラボンを対象とするRMSを用いた食品中の定量分析法の確立について検討した.具体的には,1H-qNMRでその純度を値付けしたゲニステインを基準物質として選択し,ケニステインおよび測定対象物質12種の標準溶液を用いて,PDA検出器が接続されたHPLCにて分析を行った.その結果,得られたデータに基づく原点を通る各検量線の検量線式の傾きの比から,ゲニステインに対する各測定対象物質の計量学的に正確なRMSが明らかとなった.次に,算出したRMSの妥当性を評価するため,大豆イソフラボンを含有する食品(サプリメント)2種について,常法を一部変更した方法に従い得られた試験溶液について、基準物質およびRMSを用いた定量法で試料中の測定対象物質の含量を算出し,各測定対象物質を定量用標品とした絶対検量線法(従来法)により算出された含量と比較した.その結果,すべての試料において,RMSを用いた分析法により得られた各測定対象物質の含量は,従来法から得られた含量と大きな違いは認められなかった.また,分析精度も良好であった.以上の結果より,測定対象物質とは異なる基準物質(ゲニステイン)およびRMSを用いることにより,測定対象物質の定量用標品を用いずに,サプリメント中の大豆イソフラボン類の含量を正確に定量できることが明らかとなった.今後は,様々な加工食品への適用性を明らかにすることにより,本法の有用性がさらに明確になるものと期待される.
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今後の研究の推進方策 |
食品成分や生物活性物質などを対象に,①基準物質に対する測定対象のRMSの算出,②前処理法の検討や分析法の妥当性確認などのバリデーションなど,RMSを用いた食品中の成分分析法の確立について2022年度に引き続き検討する予定である.また,確立した分析法の加工食品,食品素材への応用および有用性の実証などについて,測定対象を含有する様々な試料を用いて検討するとともに,得られた分析値や分析精度などについて測定対象と同一の定量用標品を用いた従来法と比較し,本法の有用性を実証する.さらに,更なる分析の効率化を目指し,同時定量が可能な測定対象を精査し,それらの一斉分析法を確立する.
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次年度使用額が生じた理由 |
食品関連成分の1H-qNMRやHPLC分析,RMSの算出に関して,当初の予定より費用をかけずに試薬,溶媒,重水素化溶媒が入手できたことから,使用額に変更が生じた.2023年度は,2022年度に引き続き食品関連成分のRMSの算出等に関する検討を実施する予定である.測定対象とする化合物が2022年度よりも増え,また,加工食品,食品素材への応用および有用性の実証に関する検討もさらに行うことから,検体数の増加が予想される.このため,2023年度の経費は,これらの検討で必要な標品,試薬,各種重水素化溶媒,一般試薬,消耗品の購入,研究成果の発表等に必要な経費などに充当する予定である.
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