研究課題/領域番号 |
21K05432
|
研究機関 | 静岡理工科大学 |
研究代表者 |
高部 稚子 静岡理工科大学, 理工学部, 准教授 (00436594)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 糖化ストレス / 骨代謝異常 / 食用植物 |
研究実績の概要 |
糖分とタンパク質との非酵素的な反応である糖化反応は血液中をはじめ全身で起こり、結果、様々な蛋白糖化最終産物(AGEs)を産生する。AGEsの蓄積はタンパク質の機能不全や炎症惹起に関わることから、近年、疾病予防のターゲットとされてきた。血中AGEs濃度が高い糖尿病患者は、骨折の罹患率が高いことが知られている。骨は通常、骨芽細胞による骨新生と破骨細胞による骨破壊のバランスが保たれており、このバランスが崩壊することによる骨質・骨量の低下は骨折の危険因子となる。このことから我々はAGEsによる骨代謝異常に着目し研究を行ってきた。 これまでにAGEsが破骨細胞分化を抑制すること、分化に必須な転写因子のうちMicrophthalmia-associated transcription factor, isoform E (MitF-E) 及びNuclear factor of activated T-cells, cytoplasmic 1 (NFATc1)の発現を抑制すること、MitF-Eの発現抑制には細胞外分泌小胞であるエクソソームが関与することを示した。本年度は、エクソソームに含まれる小分子RNAであるマイクロRNA(miRNA)に着目し、破骨細胞前駆細胞の分化過程において細胞培養液中に放出されたエクソソームを分離・精製し、含まれるmiRNAについてマイクロアレイを用いた網羅的な解析を行った。その結果、AGEs添加の有無によりエクソソーム内のmiRNAの発現パターンが大きく異なることが明らかとなった。更にそのうちの10種類についてreal-time PCRを行い、データの再現性を検証した。また、データベース解析から、AGEs添加によりエクソソーム内に増加する数種類のmiRNA がMitF-EまたはMitF-Eの発現制御に関わる転写因子のmRNAの3’-UTRに結合する可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト血液中の主要なタンパクであるヒト血清アルブミン(human serum albumin; HSA)に糖を加え加熱することで、糖化HSA (AGEs)を作製した。破骨細胞前駆細胞であるマウスマクロファージ由来RAW264.7細胞にReceptor activator of nuclear factor kappa-B ligand (RANKL)を作用させ破骨細胞分化を誘導する過程において糖化HSAは破骨細胞分化を抑制するが、この際得られる細胞培養培地からエクソソームを単離し、新たな破骨細胞前駆細胞にRANKLと共に加えた場合でも、MitF-E及び破骨細胞分化マーカーの低下が認められた。この系において、miRNAの成熟に関わるDicer及びエクソソームの形成に関わるALG-2 interacting protein X (Alix)をそれぞれRNA干渉法(siRNA)により抑制すると、いずれも破骨細胞分化抑制は認められなかった。次にAGEsあるいは糖を加えず加熱したHSA(加熱HSA)添加時に細胞培養液中に放出されたエクソソームを、それぞれ分離・精製し、含まれるmiRNAについてマイクロアレイを用い網羅的な解析を行った。結果、加熱HSAに比べAGEs添加により2倍以上の発現亢進したmiRNAが174種類、0.5倍以下に減少したmiRNAが203種類あった。発現亢進を示したmiRNAには、データベース解析からMitF-EあるいはMitF-Eの発現制御に関わるcAMP response element binding protein (CREB)の3’-UTRへの結合が予測されたmiRNAが含まれていた。このうち10種類についてreal-time PCRを用いて再現性の検証を行った結果、数種類のmiRNAについて再現性が認められた。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続きAGEs刺激により細胞外に放出されたエクソソームに含まれるmiRNAが、破骨細胞分化過程に与える影響について詳細な検証を進める。具体的には、選定したmiRNA数種類についてそれぞれ強制発現ベクターを用い、RAW264.7細胞にReceptor activator of nuclear factor kappa-B ligand (RANKL)と共に作用させることで、miRNAの発現亢進が破骨細胞分化過程に与える影響について検証する。また作用機序については、miRNA強制発現ベクターとMitF-E、あるいはCREBの3’-UTRを組み込んだルシフェラーゼベクターを共発現させ、miRNAがこれらの遺伝子を発現制御するメカニズムについて詳細に検証する。
併せて本課題では、AGEs産生を抑制する(抗糖化)機能を有する食用植物に関する有用性の検証も目的としている。AGEs産生を抑制する化合物は研究が進められているものの、副作用のため日本では認可されていない。我々はこれまでに500種類以上の食用植物からAGEs抑制作用を有する抗糖化素材を見出し、それらの細胞・組織・生体への効果について検証を行ってきた。その中で見出した抗糖化素材であるヤーコン・紅蓼などは、その抽出物がAGEsにより生じるMitF-E発現の減少を回復する効果を持つことを明らかにしている。AGEsによる破骨細胞分化障害過程において、これらの植物抽出物がどのような作用機序で障害を抑制しているのかを明らかにすることで、将来的に目指す骨機能障害への予防につなげるための知見を得ることを目的に研究を遂行する。
|