研究課題/領域番号 |
21K05436
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
吉場 一真 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (40375564)
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研究分担者 |
田中 進 高崎健康福祉大学, 健康福祉学部, 教授 (70348142)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | β-1,3-グルカン / 秩序-無秩序転移 / 溶媒効果 / リポ多糖 / 細胞培養 |
研究実績の概要 |
研究計画初年度では、シゾフィラン(SPG)の三重らせんとイミダゾールの相互作用を決定する熱力学的研究を行った。SPGの水溶液中の秩序―無秩序転移は、脱溶媒和を伴うので溶媒添加により秩序構造の顕著な安定化効果が観測される。一方で、転移の溶媒安定化効果が顕著に観測される活性物質としてDMSO、NaOHが知られているが、その他の物質は見つかっていなかった。そこで、添加物質としてヒスチジンのペンダント基であるイミダゾールに注目した。ヒスチジンはSPGの三重らせんを認識するDectin-1に存在する糖鎖認識ドメイン中に含まれるアミノ酸であり、自然免疫発現に必要であると考えられている。従って、シゾフィラン三重らせんと免疫細胞との分子認識に重要な知見をもたらすと考えられることから、様々な組成のイミダゾール水溶液についてシゾフィランの秩序―無秩序転移の溶媒効果を調査し、その相互作用の決定を試みた。イミダゾールは弱塩基であるため、塩酸を加えてイミダゾールの電離状態を変化させて転移に対する活性を検討した。その結果、イミダゾール、イミダゾリウムイオンの両方がSPGの水溶液の秩序-無秩序転移に対して活性物質であることを見出した。側鎖-溶媒間の秩序構造の安定化効果を多成分溶媒系に拡張した統計力学理論を構築し、生理的条件下(pH~7)ではイミダゾールとイミダゾリウムイオンは競争的に三重らせんの側鎖に選択的に相互作用することを明らかにした。加えて、マウスRAW264.7を用いて、SPG添加時の細胞実験を行った。NO産生に注目し、SPGの活性効果、及びLPS(リポ多糖)との相加的効果を検討した。 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国内学会、国際学会での発表はすべてオンラインで行われた。現在は、次年度の学会発表、学術雑誌への論文投稿に向けて準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シゾフィラン(SPG)水溶液にイミダゾールを添加すると秩序―無秩序転移の転移温度が上昇し、転移エンタルピーは増加した。この溶媒効果は、三重らせんの側鎖にイミダゾールが選択的に会合し、秩序構造が安定化するために起こる。また、生体高分子研究において水素結合を切断することで知られる尿素についても転移の溶媒効果を観測したが、イミダゾールの溶媒効果に比べるとかなり小さいことが分かった。これは、イミダゾールがSPGに対して極めて高い選択吸着性を持つことを反映している。イミダゾール溶液中ではpHの低下に伴い転移温度だけでなく、転移エンタルピーも低下した。これは、溶液のpHの低下によりイミダゾリウムイオンが生成され、側鎖―イミダゾール間、側鎖―イミダゾリウムイオン間の相互作用が異なるためである。生理的条件下(pH~7)では側鎖に対してイミダゾールとイミダゾリウムイオンの競争的会合が起こるため、三重らせんに対する会合度が低下する。一方で、酢酸などのカルボン酸は、酸性条件下で転移に対して溶媒効果を発現する活性物質であるが、中性条件下では溶媒効果が観測されなかった。多糖―イミダゾール間の選択的会合と平衡定数の決定はこれまでに行われておらず、これらの研究成果はレクチンの糖鎖認識ドメインへの結合を理解するための重要な知見であると考えられる。RAW264.7細胞を用いて、SPG添加とLPS添加時のNO産生について、25μg/mL~300μg/mLの間で添加濃度を変化させて細胞培養実験を行った。LPS単体ではNO産生が顕著に増加するが、SPG単体ではNO産生の増加は観測されなかった。また、LPSとSPGを添加した実験では、LPS単体でのNO産生と有意義な差は観測されなかった。したがって、RAW264.7は三重らせんを認識するアクセプターを持たないと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
シゾフィラン(SPG)の三重らせんに対するイミダゾールとの相互作用を秩序―無秩序転移の溶媒効果から決定し、理論解析する手法を構築した。この成果により、三重らせんとレクチンなどの生体物質との複合体形成が立体特異的だけでなく熱力学的にも安定化されることが理解できる。一方で、その他の物質との相互作用については不明である。今後は、生体内に存在する物質としてカルボン酸、リン酸化合物等の添加物について検討を行う。加えて、分岐度の異なるβ-1,3-D-グルカンについても知見を得るために、Smith分解を用いてSPGの誘導体を合成し、分岐度の異なるβ-1,3-D-グルカンの三重らせんについて、秩序―無秩序転移の側鎖分岐度の減少に対する添加物の効果を調査する。免疫細胞に対するSPGの活性効果については、培養する細胞をRAW264.7から別の単球、マクロファージ等に変更して検討を行う。例えば、マウスマクロファージJ774.1を用いた細胞培養実験では、LPSとSPGと併用によるIL-10の相加的効果が観測されている。これらの細胞に対するSPGの分子量、分岐度、化学修飾の効果、及びLPSとの相加的効果について引き続き検討する。今年度も引き続き、SPGの分子量制御、試料調製については吉場が担当し、細胞培養実験、及びその活性効果については田中が担当する。研究代表者の吉場が研究の統括、及び計画方針について調整を行う。
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