研究課題/領域番号 |
21K05439
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
山内 聡 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (00243808)
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研究分担者 |
菅原 卓也 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (00263963)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | lignan / conidendrin / lariciresinol / secoisolariciresinol / 抗アレルギー作用 / 有機合成化学 / 代謝 / 抗炎症作用 |
研究実績の概要 |
conidendrinは、食品性植物に含まれるリグナン類であるlariciresinolが摂食後に体内で代謝され生成するものである。conidendrinへの代謝の反応過程で、異性化が起こることが考えられることからconidendrinの8個全ての立体異性体の合成と人に与える効果について検討するための研究である。 本年度は、細部レベルでの生物活性を評価するために、8つ全ての立体異性体の合成をおこなった。合成における立体制御は、Evansのantiアルドール縮合、立体選択的分子内Friedel-Crafts反応、脱離、ハイドロボレーションによる異性化、塩基によるα位の異性化を用いた。Evansの不斉補助基の両鏡像異性体を用いて8個全ての立体異性体の95-100%eeでの合成に成功した。誘導体の合成も検討した。 得られた8個の立体異性体の全てについて、細胞レベルでの生物活性試験を行った。脱顆粒抑制効果については、ラット好塩基球細胞株RBL-2H3細胞を培養後、抗原であるDNP-HSAを添加し、抗原刺激によって放出されるβ-ヘキソサミニダーゼの放出量を指標として、サンプルの脱顆粒抑制効果を評価した。抗炎症効果については、マウスのアクロファージ様細胞を用いて、IL-6産生量、及び、TNF-α産生量を酵素抗体法により定量することで過剰炎症状態のマクロファージに対する抗炎症効果を評価した。脂肪細胞分化抑制効果については、マウス前駆脂肪細胞株3T3-L1細胞の分化へ与える影響を調べた。これらの結果、脱顆粒抑制効果は(-)-β-conidendrinが最も高く、抗炎症効果では、抑制効果が認められ、(+)-α-conidendrinの効果が最も高いことが示唆された。また、脂肪細胞分化抑制効果は、(-)-α-conidendrin、(+)-β-conidendrinの効果が高いと考えれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に進展した点:有機合成化学の手法により、食品摂取により体内に取り込まれたlignan代謝物であるconidendrinの全立体異性を得ることができた。このことが、細胞レベルでの活性試験を可能とし、これまで知られていなかったlignan体内代謝物の立体構造と抗アレルギー効果との関係を細胞レベルで明らかにすることができた。conidendrinの特に抗アレルギー活性を明らかにしたのみならず8個すべての立体構造と活性との関係を明らかにしたこの研究成果は、第34回動物細胞工学会2021年度大会で「(-)-β-conidendrin及びその立体異性体の脱顆粒制御効果に関する研究」として発表した。さらに本年度合成した(-)-β-conidendrinを用いて、作用機構解明が期待できる。 今後の問題点:最も高い活性を示す立体構造が確認されたことから、ベンゼン環上の置換基が生物活性に与える影響を確認するために、ベンゼン環上に異なる種類の置換基(電子吸引基、電子供与基、大きさが異なる基)を有する誘導体が合成可能かどうかを検討した。この情報は、作用機構解明の重要な情報であるからである。大きな問題点は、分子内Fridel-Crafts反応の基質には、o-またはp-位に強力な電子供与基が必要であることである。電子吸引基、弱い電子供与基の場合に分子内Fridel-Crafts反応が進行するか調べた。その結果、強力な電子供与基が存在しないと分子内Fridel-Crafts反応が進行せず、目的の骨格が得られないことが分かった。今後、誘導体の合成を行う場合には、ベンゼン環上に強い電子供与基を結合させておいて、最後に除去する必要があり、工程数が長くなることが予想された。動物実験のための大量合成法の検討も必要である。
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今後の研究の推進方策 |
(-)-β-conidendrinの立体特異的抗アレルギー活性は明らかになったが、抗炎症効果、脂肪細胞分化抑制効果については、まだ細胞レベルでの再試験が必要な段階である。初年度は、抗アレルギー活性試験については細胞レベルでの試験であったが、次年度は、動物レベルでの試験を実施する。そのため、まず、(-)-β-conidendrinの大量合成実験を実施する。これまでの合成方法で、収率がかなり悪いステップが2ヶ所ある。一つは2つ存在する水酸基の位置選択的はピバロイル基による保護、もう一つは、アルデヒドのα位の異性化である。前者は、現在は塩基にピリジン、溶媒にジクロロメタンを使用しているが、トリエチルアミン、NaH等を塩基として使用し、溶媒にTHF、DMFを使用し、さらに、温度条件を検討する。また、異性化については、DBUを塩基として用いているが、炭酸カリウム、リチウムジイソプロピルアミド、トリエチルアミンを用いた反応条件の検討を行う。以上の反応条件の検討を行いつつ0.1 g-0.5gの(-)-β-conidendrinの合成を目指す。良い結果が得られない場合は、合成ルートの変更を検討する。Evansのantiアルドール縮合物からβ位にヒドロキシ基を保護したヒドロキシメチル基を有し、γ位にベンゼン環を有する5員環ラクトンへ導きα位をベンジル化する。その後還元するとこの段階でもう一つの一級水産基が生成し、選択的な保護が可能になる。以上、大きく2つの合成ルートを検討し(-)-β-conidendrinを得た後、動物実験、さらに、作用機構の解明を目指す予定である。 以上の問題点を解決することによって、植物性食品中に含まれるsecoisolariciresinolを摂取後人体内で、lariciresinolを経る代謝の結果生じると言われているconidendrinの機能を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度目標としていた研究が概ね順調に研究が進展したため、次年度使用額が生じた。本年度は、動物実験実施のため、目的化合物の大量合成、動物実験、作用メカニズム解明を行うために使用する。
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