これまでに、BALB/c系統雄性マウスからスギ花粉症モデルマウスを作出し、梅干しから得たウメ抽出物を水に溶解して自由飲水させたところ、ひっかき行動が少なくなる傾向が見られ、くしゃみの回数は有意に低下した。本年度はBALB/c系統雌性マウスでも同様の結果が得られるか検討し、雄性マウスと同様にウメ投与によりひっかき行動が少なくなる傾向が見られ、くしゃみの回数は有意に低下したがこれらに性差は認められなかった。血清中スギ花粉特異的IgGとIgEは感作群、感作+ウメ投与(ウメ群)ともに点鼻感作の経過に伴い増加した。 非感作群、感作群、ウメ群それぞれのオスとメスの鼻腔周辺組織よりRNAを抽出しcDNAを合成しマイクロアレイ解析に用い、さらにpathway解析を行った。非感作群と比較して感作群のメスでは貪食作用に関連する遺伝子発現が低下し、炎症に関連するTNF-α遺伝子の発現が上昇した。感作群のオスでは遺伝子発現の有意な増加は見られなかった。非感作群の雌雄の比較では炎症に関連する遺伝子発現に差は見られなかったが、感作群の雌雄の比較ではオスの方がTNF関連遺伝子NF-κBの発現が高かった。 感作群と比較してウメ群のメスではTh2応答を促進するアクチビン受容体遺伝子の発現が低下した。オスではTGF-betaやTNF 伝達経路を上方制御する遺伝子の発現低下が見られ、ウメ摂取による花粉症症状軽減作用と矛盾しない結果であった。以上から花粉症症状に関連する遺伝子発現や花粉症症状に性差が見られ、ヒトの女性は男性と比較して一般に免疫応答が活発であるとされるが、その知見と一致する結果であった。また、ウメ摂取は性差に関係なく花粉症症状、特にくしゃみを軽減し、その機序はオスではTNFやTGFB経路抑制により炎症が抑制される可能性、メスではアクチビン受容体発現抑止によりTh2応答が抑制される可能性が示唆された。
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