研究課題
高齢化が進む我が国においてアルツハイマー病(AD)を主とする認知症は年々増加し、大きな社会問題となっており、その病態解明と治療法の確立は喫緊の課題と言える。近年、ADを含む認知症の発症には脳における炎症(神経炎症)が重要な役割を果たしていることが指摘されている。しかしながら、その詳細なメカニズムについては不明である。そこで本研究では、腸内細菌による神経炎症との関わりを解析することで、認知症の病態解明を行う。認知症患者における腸内細菌叢解析と頭部MRI画像解析を行うことで、認知症における神経炎症と腸内細菌との関連について解明し、腸内細菌の制御による新たな治療法の確立を目指す。2021年度は研究対象者となるアルツハイマー病患者、軽度認知障害および正常認知機能の研究対象者登録とデータ収集および糞便と血液を含む検体採取を行なった。認知機能は、MMSE、MoCA-J、ADAS-j cog、CDRを用いて評価した。また頭部MRI検査を施行し、脳血管障害(白質病変、ラクナ梗塞、脳微小出血など)の評価と拡散MRI(Free Water Imaging)を用いた神経炎症についての解析を行なった。さらに糞便サンプルから腸内細菌叢DNAを調整し、16S rRNA遺伝子およびメタゲノム配列データについて解析を行なった。血液サンプルからは、高感度CRPおよびインターロイキン- 6などの炎症関連マーカーの測定を施行した。2022年度は得られたデータの解析を行なった。アルツハイマー病群と軽度認知障害群では正常認知機能群と比較して神経炎症の増大を認め、神経炎症と認知機能評価スコア(MMSE、MoCA-J、ADAS-j cog、CDR)に関連がみられた。またアルツハイマー病群では正常認知機能群と比較して複数の短鎖脂肪酸産生菌の減少を認め、短鎖脂肪酸の減少は神経炎症の増大と関連することが示された。
2: おおむね順調に進展している
計画していた研究対象者の登録とデータ収集、検体採取は終了し、頭部MRI画像と腸内細菌叢の測定を行なった。
収集したデータを用いて、神経炎症と腸内細菌叢との関連について解析し、成果を学会および論文として発表する。
本年度に予定していた解析のうち次年度へ変更となったものがあり、未使用額が発生した。便中の短鎖脂肪酸濃度と血中炎症性サイトカイン濃度の測定費用として使用を予定している。
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すべて 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件)