研究課題
高齢化が進む我が国においてアルツハイマー病(AD)を主とする認知症は年々増加し、大きな社会問題となっており、その病態解明と治療法の確立は喫緊の課題と言える。近年、ADを含む認知症の発症には脳における炎症(神経炎症)が重要な役割を果たしていることが指摘されている。しかしながら、その詳細なメカニズムについては不明である。そこで本研究では、腸内細菌による神経炎症との関わりを解析することで、認知症の病態解明を行う。認知症患者における腸内細菌叢解析と頭部MRI画像解析を行うことで、認知症における神経炎症と腸内細菌との関連について解明し、腸内細菌の制御による新たな治療法の確立を目指す。当該年度の研究では、アルツハイマー型認知症(AD)群と軽度認知障害(MCI)群では正常認知機能(NC)群と比較して、神経炎症マーカーである頭部拡散MRI FW値が、白質および皮質において有意に上昇を認めることが明らかとなった。さらにAD群とMCI群を合わせたAD/MCI群では、海馬を含む側頭葉および辺縁系領域の皮質におけるFW値の上昇は、認知機能検査(MMSE、MoCA、ADAS-cog、CDR-SB)のスコア悪化と相関した。また腸内細菌叢解析では、NC群と比較して、MCI群、AD群の順に複数の短鎖脂肪酸産生菌の減少を認めた。さらにAD/MCI群では、これらの短鎖脂肪酸産生菌の減少が側頭葉および辺縁系領域のFW値の上昇と相関した。以上の結果により、短鎖脂肪酸産生菌の減少を伴う腸内細菌叢バランスの異常は、神経炎症に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
計画していた研究対象者の登録とデータ収集、検体採取が完了し、当該年度の目標である頭部MRI画像と腸内細菌叢との関連についても解析が進んでいる。
本年度は解析結果をまとめ、研究成果を学会および論文として発表する予定である。
研究成果をより精緻に達成するための追加解析、学会参加、論文投稿を予定している。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
CNS Neuroscience & Therapeutics
巻: 29 ページ: 200~212
10.1111/cns.14301