研究課題/領域番号 |
21K05444
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
奈良井 朝子 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 准教授 (00339475)
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研究分担者 |
松田 寛子 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 講師 (80709733)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | phytol / chlorophyll / pheophytin / enzyme / smoothie |
研究実績の概要 |
新鮮な野菜・果物を生のまま摩砕したスムージー摂取による健康効果が注目されている。スムージー加工では食材由来の酵素が関わる様々な反応が起こりうるため、これまであまり注目されることがなかったクロロフィル分解酵素の反応と、その生成物であるフィトールに着目する。 クロロフィル分解酵素については食品加工・調理の分野でその反応がもたらす影響を詳細に調べた例がない。一方で、フィトールは抗肥満、抗糖尿病につながる生理活性を示すことが報告されている。そこで本研究では、1) 野菜・果物、その加工品に含まれるフィトール量の測定、2) フィトールとその代謝産物で乳製品や魚肉に豊富なフィタン酸の生理活性の比較、3) クロロフィル分解酵素活性が高い食材のスクリーニング、4) その酵素学的性質を利用しフィトール生成量を増やす食材の組み合わせやスムージー加工条件の検討をおこない、野菜・果物がもつ保健機能を最大限引き出す加工・調理方法を追究することを計画した。 2021年度は、1)ホウレンソウ、グリーンキウイ、レモン、市販の野菜ジュース複数種類についてフィトール量を測定した。2)スポーツ栄養学的視点からフィトールとフィタン酸の効果を検討するため、運動後、筋肉中のグリコーゲンが枯渇した状態のマウスにグルコースとそれぞれの被験物質を経口投与し、グリコーゲン超回復に及ぼす影響を調べた。3)先の1)に挙げたホウレンソウとグリーンキウイ、レモンについて硫安塩析法で粗タンパク質を抽出し、これを粗酵素としてクロロフィルaまたはフェオフィチンaと反応させ、遊離するフィトール量をHPLC分析することでクロロフィル分解酵素の活性を測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)ホウレンソウ、グリーンキウイ、レモンについて一般的な脂質抽出溶剤であるクロロホルムーメタノール、あるいは酵素活性測定で用いるアセトンーヘキサンを用いてフィトールを抽出後、HPLCにて分析したところ、食材と抽出溶剤の組み合わせによって定量値が異なっていた。すなわち、ホウレンソウではアセトンーヘキサンの抽出効率が高く、他はクロロホルムーメタノールによる抽出が良好であったため、食材と抽出溶剤の組み合わせを検証する必要性が示唆された。 2)フィトールやフィタン酸の摂取が、マウス組織中のグリコーゲン超回復能に及ぼす効果をそれぞれ明確にした。また、これらの現象と関連の深い、血中グルコース濃度や遊離脂肪酸濃度の挙動を基に、各組織における関連シグナル伝達因子の活性指標についてウェスタンブロッティングにより解析している。 3)先の1)に挙げた食材から硫安塩析法で粗タンパク質を抽出し、これを粗酵素としてクロロフィルaまたはフェオフィチンaと反応させ、遊離するフィトール量をHPLC分析することでクロロフィル分解酵素の活性を測定した。それぞれの食材において、クロロフィル分解酵素の活性をpH 4から9の範囲で調べた結果、ホウレンソウとグリーンキウイは弱アルカリ性ほど活性が高く、レモンの至適pHは4から5付近であった。また、ホウレンソウはクロロフィル、レモンはフェオフィチンに対するフィトール脱離作用が高く、酵素の特性が食材によって異なることも明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
1) 野菜・果物の種類を増やしてフィトール含量を測定するとともに、市販ジュースなどの加工品についてもフィトール量の測定を進め、加工工程におけるクロロフィル分解酵素の寄与を考察する。 2) フィトールやフィタン酸の摂取が、マウス組織中のグリコーゲン超回復能に及ぼす効果については、関連シグナル伝達を介したメカニズムの解明を進めていく。また、両被験物質の生理活性の比較についてはin vitro試験系の導入を検討する。例えば、被験物質はいずれも脂溶性で構造的な大きな違いはカルボキシ基の有無である。そのため、リン脂質で調製したリポソームを細胞膜を構成するリン脂質二重層のモデルとして用い、経口摂取した被験物質が消化管内で細胞表面へ結合後、生体内に吸収されるまでのプロセスに差があるのか調べる。 3) クロロフィル分解酵素活性が高い食材については、pH依存性のほかに温度依存性と熱安定性に関する酵素学的性質、また阻害成分や活性化成分を調べ、4)に向けて有用な知見を得る。 4) フィトール生成量を増やす食材の組み合わせやスムージー加工条件の検討においては、3)で得られたクロロフィル分解酵素の酵素学的性質に関する知見を活かす。具体的には食材の種類、添加物の有無、pHと温度を最適な条件に整え、保健機能として期待されるフィトールを富化しうる野菜・果物の加工・調理方法を追究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
助成金が一部残った理由として、大学院生の学会参加費に学内予算を充てられたこと、HPLC用溶媒、抗体試薬や脂肪酸測定キットは翌年度にまたがって使用する分が残っていたため今年度内の購入を見合わせたことが挙げられる。 研究の実施状況から、次年度は食材や酵素反応試料中のフィトール抽出・分析、ウエスタンブロッティングによる解析の頻度が高くなると予想され、また、血清や生体組織試料中の生体成分についても再測定を要する項目があるため、翌年度助成金と合わせた予算にてこれらの実験を遂行する。
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