研究課題/領域番号 |
21K05446
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
澤井 淳 神奈川工科大学, 健康医療科学部, 教授 (80288216)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カンピロバクター / 食中毒 / 移動性 / 運動性 / バイオフィルム / 抗菌物質 / ろ紙 |
研究実績の概要 |
カンピロバクター(C. jejuni)は、極めて高い運動性を有し、表面から食品内部へ移動することから、食中毒の防止にはC. jejuniの運動性を阻害することが有効である。2021年度では、従来の2次元での細菌の運動性評価ではなく、濾紙を利用し食品中への移動を想定した細孔中での3次元条件下でのカンピロバクターの運動性+バイオフィルム(BF)形成能の評価方法の確立ができた。 2022年度においては本法を利用し、C. jejuniの運動性の阻害に有効な天然抗菌物質等のスクリーニングを行った。天然抗菌物質としてタイムチモール、オレガノワイルド等を使用した。比較対照として、70%エタノール及び次亜塩素酸Na(200ppm)を使用した。C. jejuni ATCC 29428をCCDA培地に塗布し培養した。形成したコロニーの上に0.45 μmのニトロセルロース製ろ紙をのせた。シャーレの蓋に調製した抗菌物質溶液を染み込ませたペーパーディスクをのせ、蓋をした。CCDA培地にパラフィルムを巻くものと巻かないものを分けて作り、培養(微好気性条件, 37 ℃, 48 h)した。培養後、CCDA培地のろ紙上のコロニーを観察した。なお、1枚のペーパーディスクに対し100 μLの抗菌物質溶液を染み込ませ、1 ~ 3 枚蓋に置いた場合を検討した。また、アルコール及び次亜塩素酸ナトリウムは300μLをシャーレ上のコロニーに吹きかけ、その後にろ紙を置いた。 結果として、オレガノワイルド、タイムチモール、ユーカリ油、カルバクロールは揮発してC. jejuniの運動性を阻止した。一方、消毒剤として使用されているアルコール及び次亜塩素酸NaはC. jejuniを阻止できず、ろ紙上にコロニー形成が確認された。以上の結果より、本評価方法によりC. jejuniの運動性阻害物質のスクリーニングが可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、2021年度において開発した本評価方法が、カンピロバクターの運動性を阻害する抗菌物質のスクリーニングに適用可能かを検討することが目的であった。 天然抗菌物質として、オレガノワイルド、タイムチモール、ヒノキチオール、カプサイシン、ポリリジン、イソチオシアン酸アリル、ユーカリ油、カルバクロールの8種について検討し、フェノール骨格を有する天然揮発性成分が、カンピロバクターの運動性を阻害するのに有効であることが分かった。さらに70%エタノールや次亜塩素酸ナトリウム(200ppm)は、実際に使用されているにもかかわらず、阻害効果が認められず、有効な手段と言えないことも分かった。これは、昨今のカンピロバクターの食中毒の発生件数の多さとも一致している傾向と考えられた。物理学的な手法も考えたが、実プロセスに導入するには難しいと考え、今回は行わなかった。 以上より、今年度の目的は、ほぼ達成されており、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を踏まえ、2023年度は以下に示す計画ですすめる。 実食肉における評価(2023年度):2022年度のスクリーニングの結果を踏まえ、食肉表面にC. jejuni を塗布する。天然抗菌物質および物理的処理を行い、ろ紙を載せ培養し、運動性が阻害できているかどうか検討する。また食肉表面をトリミングし菌体が食肉内部へ侵攻しているか、C. jejuni の菌数を測定し、未処理のものと比較する。また2022年度におこなった天然抗菌物質のスクリーニングも並行して実施する。以上、3年間の成果をもとに、運動性を阻害するという新たなカンピロバクターの制御方法を提示することを目的とする。
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