研究課題/領域番号 |
21K05450
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研究機関 | 徳島県立農林水産総合技術支援センター(試験研究部) |
研究代表者 |
新居 美香 徳島県立農林水産総合技術支援センター(試験研究部), 徳島県立農林水産総合技術支援センター(資源環境研究課), 研究員(統括・上席) (30502166)
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研究分担者 |
阪上 浩 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (60372645)
堤 理恵 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 講師 (80510172)
大西 康太 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (80723816) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 香酸柑橘 / 脂肪細胞 / 分化抑制 / 阿波すず香 |
研究実績の概要 |
カンキツ類の果皮は、認知症予防(オーラプテン)や動脈硬化予防(フラボノイド)、発ガン抑制効果(β-クリプトキサンチン)等の機能性成分を多く含有することが、細胞実験・動物実験により報告されている。しかし、いずれのカンキツ類の果皮も苦味が強く、摂取するための加工には多数の工程を必要とする。 阿波すず香(Citrus junos x C. sudachi)は、2017年に徳島県が育成した香酸カンキツであり、固有の芳香と風味があり、果皮の苦味が少なく、果皮自身を食することが可能であることから、食品加工事業者、外食産業他から注目されつつある。また、機能性食品研究者らからは、機能性成分の獲得が容易なカンキツ類として期待されている。 本研究では、阿波すず香果皮の抗肥満効果について検討した。まず、動物実験として、C57Bl/6マウス雄7週齢より、脂質20%含有食に3%の阿波すず香果皮粉末を混餌し、自由摂取させた。コントロール食は通常の脂質20%含有食とした。13週齢の摂餌後に経口糖負荷試験を行い、糖負荷後30,60,90分後に阿波すず香群では有意に血糖値の上昇が抑制された。また、16週後には、内臓脂肪、皮下脂肪重量が阿波すず香群にて有意な低値を認めた。肝臓における遺伝子発現解析においてはコレステロール合成に関わるSREBP1の発現抑制が認められた。さらに、果皮より酢酸エチルを用いて抽出した溶液を3T3-L1細胞に処理すると、脂肪細胞の分化が分化誘導後48時間までに抑制され、遺伝子発現解析の結果、PPARγ、PPARδ、C/EBPα、aP2、Lepの発現抑制が認められた。また、それぞれの分画を脂肪細胞に処理した結果、脂肪細胞の分化抑制効果を示す主成分はオーラプテンであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウスの摂餌試験において無塩バター含有高脂肪食に阿波すず香果皮(3%)を16週間混餌投与した。18週齢時に経口糖負荷試験にて耐糖能を評価し、21週齢時に剖検を行い、各臓器重量や遺伝子発現解析を実施した結果、コントロールsの高脂肪食群と比較して、阿波すず香果皮摂取群は体重、摂取量に有意さはなかったが糖負荷試験で耐糖能の改善が認められた。また、皮下脂肪及び内臓脂肪の重量が少なく、肝臓におけるコレステロール合成遺伝子SREBP1遺伝子の発現が抑制されていた。 3T3-L1前駆脂肪細胞をDMEM/10%FBSにて培養し、分化誘導開始時に果皮エタノール抽出物、抽出物の水または酢酸エチル分画を添加し、分化誘導庫2~10日幹の脂肪蓄積について顕微鏡下にて評価したところ、酢酸エチル画分でのみ脂肪蓄積抑制効果がみられた。阿波すず香果皮の抽出物を処理した細胞では、分化誘導によるC/EBPβ、δ発現に変化はなかったが、分化初期の一過性細胞増殖が認められず、C/EBPα、PPARγ遺伝子発現抑制と脂肪蓄積の抑制が認められた。 阿波すず香の酢酸エチル画分をHPLCの溶出時間により分画し、3T3-L1前駆脂肪細胞で分化誘導を試みた結果、オーラプテンを含む画分で脂肪細胞分化が抑制された。阿波すず香果皮からオーラプテンを含む画分を大量に精製・乾固したものを油C57BLC57BL/6マウスに50mg/kg/日を経口投与したところ、対照群と比較して脂肪蓄積抑制効果が認められず、精製度や投与方法などに課題が残ったため現在再検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
阿波すず香果皮の抗肥満効果を明らかにするために、動物実験において高脂肪食に阿波すず香果皮を混餌した場合、コントロール食と比較して、血糖値の上昇抑制、内臓脂肪、皮下脂肪の有意な低地が確認され、肝臓においてコレステロール合成に関わる遺伝子の発現抑制が認められた。また、培養細胞において果皮阿波すず香抽出物を添加することで、脂肪細胞への分化誘導が抑制され、脂肪細胞誘導時に特異的に発現するPPARγ、δ、C/EBPα、aP2、Lepの遺伝子発現の抑制が認められ、これら分化誘導抑制効果を示す成分は、阿波すず香果皮に多く含まれるオーラプテンであることが明らかになった。 今後は、培養細胞を用いて、機能性成分であるオーラプテンの作用機序を明らかにするとともに、現在計画中の阿波すず香果皮粉末を用いてヒト介入試験を実施し、ヒトの健康に与える効果を明らかにすることで、将来的には機能性農産物としての普及を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
阿波すず香果皮ヒト試験のための果皮調整(乾燥、粉末化)の際に廃棄率が高くなるなどの問題が発生し、試験用錠剤の準備が遅れた。現在、粉末化、ガンマ線滅菌を終え、錠剤化のための手続きを実施中。
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