ヒト骨格筋におけるGPR43と酢酸によるその活性化作用について明らかにする目的で、昨年度の研究では、ヒト大腿筋細胞における酢酸による骨格筋関連遺伝子の発現レベルの変化を解析し、ヒト骨格筋細胞においても酢酸が細胞内カルシウムレベルを上昇とAMPK活性化により、呼吸代謝関連因子の発現を誘導することが示唆する結果を得た。そこで本年度の研究では、大腿筋以外のヒト骨格筋細胞として、ヒト腹直筋細胞を用いて解析を行った。腹直筋細胞に酢酸を10分間作用させると、GPR43遺伝子の発現が増加傾向であったが統計的な有意差はなかった。GPR43アゴニストを作用させるとGPR43の発現は有意に増加した。酢酸の作用より、MEF2A、ミオグロビン、PGC1α、SDH、およびチトクロームc遺伝子の発現が有意増加した。GPR43アゴニストを作用させると、MEF2A、ミオグロビン、PGC1αの発現が有意に増加した。一方、酢酸とAMPK阻害剤が共に存在する条件では、MEF2A、ミオグロビン、PGC1α、SDH、およびチトクロームc遺伝子の発現上昇が全て抑制された。AMPKのリン酸化レベルは酢酸により有意に増加し、AMPK阻害剤によりその増加が抑制された。またMEF2AおよびPGC1αタンパク質の発現レベルも酢酸により有意に増加し、AMPK阻害剤により発現増加が抑制された。一方で、酢酸による細胞内カルシウム放出の程度はアゴニストより低い傾向が見られた。以上より、ヒト骨格筋細胞において酢酸はAMPKの活性化を介して呼吸代謝関連因子の発現を誘導し、ミトコンドリア増幅に作用すると示唆された。
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