研究課題/領域番号 |
21K05459
|
研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
服部 一夫 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (10385495)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 腸管 / オルガノイド / 分岐鎖アミノ酸 / バリン / ロイシン / イソロイシン / 幹細胞 / アミノ酸欠乏 |
研究実績の概要 |
我々の先行研究 (Saito et al. Biochem Biophys Res Commun 488, 171-6 (2017)) において、アミノ酸の一つであるバリンの欠乏が、マウス空腸由来の腸管オルガノイドの細胞増殖を抑制するという結果が得られた。しかし、バリンをはじめとするアミノ酸と腸管機能の関係には不明な点が多く残されている。そこで本研究では、腸管オルガノイドを用いて、分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)の欠乏が腸管上皮細胞に及ぼす影響を調べた。その結果、24 時間のバリン欠乏が腸管オルガノイドの細胞増殖を抑制し、Lgr5-EGFP 陽性幹細胞数を有意に減少させることを見出した。また、バリン欠乏条件下では幹細胞においてアポトーシスが惹起されていた。一方で、ロイシンおよびイソロイシン欠乏で は細胞増殖抑制、幹細胞数減少、幹細胞中のアポトーシスは認められなかった。次に、分岐鎖アミノ酸が幹細胞からの分化に及ぼす影響を調べた。その結果、9 時間のバリン欠乏により MUC2(杯細胞マーカー)のmRNA 量が増加したのに対し、12~24 時間のロイシン欠乏で MUC2、ChgA(内分泌細胞マーカー)、SGLT1(吸収上皮細胞マーカー)が増加し、イソロイシン欠乏では MUC2、ChgA が増加した。蛍光免疫染色の結果、イソロイシン欠乏においては、ChgA 陽性細胞数の有意な増加も認められた。これらの結果は、個々の分岐鎖アミノ酸が腸管上皮細胞に異なる影響を及ぼしていることを示した。以上より、バリンは主に腸管幹細胞の維持に重要であり、ロイシンおよびイソロイシンはバリンよりも腸管上皮細胞の分化に大きく関与することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、腸管オルガノイドを用いて腸管幹細胞に対する分岐鎖アミノ酸の影響を明らかにすることを目的とした。本研究より、ロイシンおよびイソロイシンの欠乏は幹細胞に影響を及ぼさないが、バリンの欠乏は幹細胞に負の影響を与えることを明らかにした。また、バリンは幹細胞からの分化に影響を及ぼさないが、ロイシンおよびイソロイシンの欠乏は分化を促進する可能性が示唆された。以上より、腸管幹細胞に対する分岐鎖アミノ酸の影響を明らかにすることができたため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
R3年度の結果から、バリン欠乏はアポトーシスによる幹細胞数の減少や増殖の低下、ロイシンおよびイソロイシン欠乏は幹細胞からの分化に影響を及ぼすことが示唆された。R4年度では、これらの結果がどのようにして起きているのか、そのメカニズムを解析する。具体的には、各分岐鎖アミノ酸欠乏培地で培養した腸管オルガノイドのRNA-seq解析により、バリン、ロイシン、イソロイシンの欠乏による影響を網羅的に解析し、認められた変化となる因子や経路を明らかにする予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
R3年度の研究が予定通り終了したが、さらに研究を進めるには予算が少ないため、繰り越しとした。R4年度に、BCAA欠乏が腸管幹細胞に及ぼした変化のメカニズム解析に使用することにした。
|