研究課題/領域番号 |
21K05461
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
伊藤・山谷 紘子 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (80648684)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 硫黄代謝 / 伝統野菜 / アブラナ科植物 / 機能性成分 / 酵素 |
研究実績の概要 |
近年、農作物、特に野菜類への期待が「美味しさ」だけでなく、「健康への機能性」も兼ね備えることに変わりつつある。植物の機能性成分として報告されている物質の多くは有機硫黄化合物である。ゆえに、硫黄代謝を制御し、植物体内中のこれらの物質量を高めることができれば、摂食目的にかなう機能性成分高含有野菜を育成できると考えられる。そのためには、植物における硫黄吸収と体内代謝系が、どのように制御されているかを解明する必要がある。本研究では、有機硫黄代謝に関与する鍵酵素の活性と、同一個体内における硫黄代謝に関与する酵素遺伝子の同時発現様態の検討から、植物の硫黄代謝制御に関する基礎的な知見を得ることを目的とする。 供試材料としては、独自の硫黄吸収機構や硫黄代謝系を持っていると考えられる「アブラナ科伝統野菜」を選んだ。これは、アブラナ科には、スルフォラファンなどの機能性を持つ有機態硫黄化合物の含有率が高い植物が多く、さらにその中でも伝統野菜は、独特の優良形質が伝統という長い栽培履歴の中で選抜されている経緯から、機能性物質が多量に含まれている品種である確率が高いと考えたからである。 初年度は、これまで調べた日本全国に存在する40品種のアブラナ科伝統野菜の、根域硫黄濃度への応答を再解析し、根域イオウ濃度への応答が異なる7品種を絞り、植物の栽培とサンプリングを行った。測定項目としては、①無機態硫黄および有機態硫黄の硫黄量、②有機硫黄合成への分岐点での鍵酵素であるATP sulfurylaseの活性、③硫黄代謝において硫黄還元-アミノ酸系 (一次代謝)か、硫黄のリン酸化系(二次代謝)かへの分岐点となる酵素 (APS reductase) の活性の変化に焦点をあて、硫黄高含有植物品種間の硫黄代謝制御機構を比較検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究では、前課題(基盤(C)H30-R2 申請者代表)で調べた40品種のアブラナ科伝統野菜を、高濃度硫黄水耕液で栽培した時の植物態硫黄濃度、または根域硫黄濃度への応答性を基に再解析した。その結果、①硫黄含有量が高く、さらに根域硫黄濃度に応じて体内硫黄濃度が著しく増加する品種、②硫黄含有量は他品種よりも高いが、根域硫黄濃度への応答性は低い品種、③硫黄含有量も根域硫黄濃度への応答も低い品種に分けることができた。その分類から異なるグループに属する7品種を選び、植物の栽培とサンプリングを行った。さらに解析のターゲットとなる2つの酵素ATP sulfurylase、APS reductaseの測定方法について幾つかの方法を検討し、簡便に判定できる方法を確立した。そしてその確立した方法を用いて、今までアブラナ科モデル植物のシロイヌナズナで報告がなされていた酵素の制御とは、異なる傾向を示した伝統野菜の存在を見出すことに成功した。また、植物体内硫黄を有機態硫黄と無機態硫黄に分画して測定する方法も検討した。現在、これらのデータを用いて、根域硫黄濃度が高まった時に、無機態硫酸イオンとして蓄積するのか、有機態硫黄に代謝して蓄積する方向に進むのか、それにはどの酵素の制御が必要であるのかを、比較検討している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては、供試品種を増やして栽培およびサンプリングをし、それらの無機態硫黄および有機態硫黄量を測定し、有機硫黄合成への分岐点での鍵酵素であるATP sulfurylaseの活性と遺伝子発現量との相関を検討する。 また、APS kinaseは、ATP sulfurylaseによってAPSに付加された硫黄を二次代謝経路(硫黄を様々な二次代謝産物へ組み込むための活性硫酸塩供与体として働くPAPSの合成経路)へ導く酵素で、APS reductaseとともに硫黄代謝を調節する酵素として注目されている。そこで、有機態硫黄を多量に蓄積していることが明らかになった伝統野菜については、分岐を司る2つの酵素 (APS reductaseとAPS kinase) の活性および遺伝子発現量の変化と、システインやグルタチオンなどのチオール化合物の増減を測定し、硫黄高含有植物の硫黄代謝制御機構を比較検討する。また、有機態硫黄が顕著に増大している品種おける体内代謝化合物を明らかにするために、メタボローム解析により硫黄代謝物の相対定量解析も行う予定である。
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