農作物、特に野菜類においては、多くのイオウ(S)酸化型含硫化合物が機能性成分として報告されている。機能性を持つS酸化型含硫化合物を多く含む野菜の栽培・育成のためには、まず原料となるSが多量に植物体内に取り込まれ、さらに合成経路が活性化される必要がある。そこで我々は、多量のSを取り込む仕組みと、S代謝系の制御機構を解析することを目的にした研究を行った。 伝統野菜は、長い栽培経歴の中で優良形質(うま味、機能性など)が選抜され、独自のS吸収機構やS代謝系を持っていると考えられる。本研究ではアブラナ科伝統野菜を対象に、根域S濃度を変えた時の①無機態Sおよび有機態S含有量、②有機S合成への分岐を司る酵素であるATP sulfurylase(ATPS)の活性、③S代謝において還元同化経路、または酸化型含硫化合物生合成経路への分岐を司る酵素であるAPS reductase(APR)とAPS kinase(APK)の活性の変化に焦点をあて、品種間で比較検討した。 その結果、根域S濃度の変化がAPRやAPKの活性に与える影響は低く、根部S供給量を増やしても特定の経路に優先的に利用されるわけではないことが明らかとなった。一方、根域S濃度が、ATPSとAPK活性の変化に与える影響を調べたところ、S吸収能が低い品種群では両酵素間の活性の変化に相関が見られ、S吸収能が高い品種では相関が認められなかった。このことから、前者の品種群では吸収した余剰Sを積極的に有機代謝系に分配していると考えられる。一方、後者の品種群では、余剰Sを無機イオンとして液胞等に蓄える能力があり、その能力のためにS吸収能を高めることができたと考えられた。これらの品種では、例えばS施肥により機能性成分である酸化型含硫化合物が増加する可能性が見出された。
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