研究課題/領域番号 |
21K05474
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
増澤・尾崎 依 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (70614717)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 水溶性食物繊維 / イヌリン / DSS誘導性大腸炎 / 炎症性腸疾患 / 短鎖脂肪酸 |
研究実績の概要 |
これまでに,水溶性食物繊維であるイヌリンやフラクトオリゴ糖(FOS)の摂取が,マウスにおいてデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎の病態を悪化させることを明らかにしてきた。本年度は,摂取したイヌリンやFOSが腸内細菌によって資化されて産生される短鎖脂肪酸類が,大腸炎の病態を悪化させる要因であるかどうかを検討した。短鎖脂肪酸は経口投与しても大部分が胃や小腸で吸収されて大腸には殆ど届かないため,酢酸の誘導体であるトリアセチン,プロピオン酸の誘導体であるトリプロピオニン,および酪酸の誘導体であるトリブチリンを用いることとした。まずマウスにこれらの短鎖脂肪酸前駆体を経口投与し,盲腸内と血中において各短鎖脂肪酸の濃度が増加することを確認した。次に,各短鎖脂肪酸の前駆体を経口投与後,DSS溶液を7日間飲水投与して大腸炎を誘導した。毎日体重や便の性状を記録し,大腸炎の重症度を評価するDisease Activity Index (DAI)を算出した。また,試験終了後に大腸を回収してHE染色およびアルシアンブルー染色により大腸の組織構造や粘液産生細胞を観察した。その結果,トリアセチンおよびトリブチリンの投与により,大腸の上皮組織において広範囲に杯細胞の消失を伴う粘膜組織の損傷が観察された。また,血便症状が悪化し,DAIが増加した。一方,トリプロピオニンの投与は大腸上皮の粘膜組織の損傷を促進せず,DAIスコアも増加しなかった。これらの結果から,イヌリンの摂取時に産生される酢酸および酪酸が,イヌリンがDSS誘導性の大腸炎を悪化させる要因であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は主に,令和3年度に研究を中断したため実施できなかった解析を実施した。短鎖脂肪酸は経口摂取しても胃や小腸で吸収され大腸には殆ど届かないため,当初は各短鎖脂肪酸をそれぞれスターチにエステル結合させたものを作製し飼料に混合してマウスに給餌することを計画していた。しかし種々の条件検討を行う過程で,各短鎖脂肪酸種の誘導体を経口投与することにより対応する短鎖脂肪酸の血中と盲腸中の濃度が増加することが確認でき,これらを使用することで当初の計画よりも効率よく実験を実施することができた。またその結果,当初令和3年度に計画していた「大腸炎を悪化させる短鎖脂肪酸種を同定する」という目的を達成することができたため,本年度は研究に一定の進展があったと考えている。一方で,研究開始当初に令和4年度以降に実施することを計画していた腸内細菌叢の解析や,大腸炎を悪化させる因子の解析を実施するまでには至らず,研究全体の進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は大腸炎を悪化させる因子について,特に炎症性サイトカインや低分子化合物に着目して解析することを計画しており,イヌリン摂取時の大腸炎の悪化と関連のある因子をスクリーニングする予定である。令和4年度に,イヌリン摂取時に産生される短鎖脂肪酸である酢酸および酪酸が大腸炎を悪化させることが明らかになったため,酢酸および酪酸の前駆体をマウスに投与して血液と腸管上皮組織をサンプリングし,RNA seq解析を行い,大腸の炎症部位において大腸炎の悪化に伴い発現量が変化する遺伝子群を抽出する。また,IBDの病態形成や進行への関与が報告されている炎症性サイトカイン(TNF-a,IL-1b,IL-6,IL-12/23,IL-18,INF-a,INF-g,TGF-b)および,抗炎症性サイトカインで腸炎を抑制するIL-10(KOマウスは腸炎を自然発症する)等を定量する。さらに,短鎖脂肪酸による炎症修飾の特徴を明らかにするため,メタボローム解析を実施して代謝産物のプロファイルを明らかにすることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は,研究開始当初に計画していた炎症性・抗炎症性サイトカイン種の定量やメタボローム解析を実施するまでに至らず,次年度使用額が発生した。令和4年度中に補助事業延長申請を行い認められたため,次年度使用額は主に,本年度中に実施することができなかったマルチプレックスサスペンションアレイを用いた炎症性・抗炎症性サイトカイン種の測定や,メタボローム解析を実施するために使用する計画である。
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