研究課題/領域番号 |
21K05489
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
朝田 良子 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 助教 (60546349)
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研究分担者 |
古田 雅一 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 客員教授 (40181458)
坂元 仁 大阪公立大学, 研究推進機構, 客員研究員 (40570560)
土戸 哲明 大阪公立大学, 研究推進機構, 客員教授 (50029295)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 食品科学 / 微生物制御 / DNA損傷 / 細菌芽胞 / 損傷菌 / 食品 / 殺菌 |
研究実績の概要 |
今年度は加熱、放射線(ガンマ線)、紫外線処理に引き続き、薬剤(過酸化水素)の処理における損傷菌の動態解析を行った。各種殺菌処理に耐性を持ち、生存する損傷芽胞数を把握し、また、その損傷芽胞の発育動態を比較検討することで細菌芽胞の制御理論の構築へ進んでいる。また、過酸化水素処理でもDNAの損傷と修復(非相同組換え末端結合修復関与のykoVUと相同組換え修復関与のrecA)および保護(DNA結合タンパク質SASP遺伝子のsspA sspB)機構の関連性や細胞損傷、回復機構の特性について、枯草菌の関連遺伝子破壊株を用い、平板法と液体培養法の比較による差分培養法(DiVSaL法)によって解析した。その結果、加熱処理で多くの損傷菌が発生し、加熱処理の次に過酸化水素処理も損傷芽胞が多く存在することが分かった。5%過酸化水素では他の殺菌方法よりも細胞死は少ないが、細胞死には至らない損傷が生じ、増殖までの遅延時間(損傷修復時間)が生じていることが原因だと考えられる。 さらに、各種殺菌処理後の培養における損傷菌集団の増殖・生育の動態解析と細胞生理学的研究結果をもとに、微生物の損傷には数種の損傷パターンがあることを示した。その損傷様式の特徴(再生育開始遅延型、生育速度低下型、活性酸素感受性化による2次損傷型など)により、修復後の増殖パターンを分けることができ、併用処理の組合せなどの検討に進んでいる(制御理論の検討)。その動態解析の中で、損傷後に分裂は繰り返すが、最終的にはコロニーを形成できない致死現象を見つけだし、枯草菌芽胞およびカビについてこの「増殖死」について定義し、論文化した。また、カビにおける加熱、放射線殺菌による発生する損傷菌の新たな評価法(DiVSaS法)について開発し学会発表および論文化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
従来の殺菌法である加熱、薬剤、ガンマ線等の殺菌ストレスによる動態解析を開始し、殺菌処理法の違いにより、発生する損傷菌数、その後の発育速度ならびに発育パターンの違いも明らかになった。しかし、各種修復関連遺伝子欠損株を用いた試験により「通常示さない発育動態や細胞死」も確認できたが、この挙動や細胞死の特性、作用機構はまだ分かっていない。このことから損傷修復からの発育動態解析だけでなく細胞死の実験も追加することとなり、予定していた論文化が進まずやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で新たに確認された「通常示さない発育動態や細胞死」は紫外線処理ではrecA欠損株で顕著にみられたことから、非相同組換え末端結合修復および相同組換え修復関与遺伝子だけでなく、SOS応答および除去修復関与lexA,recA ,uvrBA等)関連の枯草菌芽胞の遺伝子破壊株を作製し、各種殺菌処理の比較により、DNA損傷と修復機構の関連性や特性を明らかにする。さらに、タイムラプスや限界希釈によるシングルセル解析を行うことで理論や現象だけでなく、「増殖死」を実証するための実験に取り組み、殺菌ストレスから細胞死へのシグナル応答と解析結果を連動させる。 また、これまでストレス応答制御遺伝子欠損株を用いて、各種殺菌処理の比較により、DNA損傷と修復機構の関連性や細胞損傷、回復機構の特性について検討を行ってきた。この各種殺菌ストレスによる動態解析および損傷・回復機構の解明の結果から制御理論の構築を目指し、その成果の発表を行う。これまで解析した処理方法による発芽、成長過程の損傷・修復機構の影響の違いを体系的に確認するとともに、併用作用等による効果も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の目的を達成するために実験を追加します。さらに2023年度に得た実験データによる論文投稿を行う予定であり、その論文投稿費用として次年度に予算を継続しています。
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