研究課題/領域番号 |
21K05494
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
高畠 令王奈 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, 上級研究員 (20463466)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 極低濃度 / PCR / 標準物質 / 定量分析 / 1分子 |
研究実績の概要 |
PCR検査において、偽陰性を完全に抑えることは難しい。現状では、試料中に標的核酸が存在していないことによる陰性と、標的核酸が存在しているが検出されなかった偽陰性を区別することは極めて困難である。一般的に、PCRは僅か1分子のDNAをも検出可能であると考えられてきた。しかしながら、1分子のDNAが実際に検出可能であるか、検出可能な場合、どれくらいの確率で検出できるのか?といった問題は全く検証されてこなかった。本研究は、申請者らが開発したPCRの標的配列を1個単位で制御可能な標準物質を利用し、さらに、PCRの標的配列以外に多コピーの確認配列を導入した標準細胞を利用することによって、DNA1分子の検出性能を評価する。1コピーの検出性能を正確に評価するには、確実に標的配列を1コピーずつ分注し、且つ、それが確認できる系の確立が重要である。本研究で利用する標準物質では、細胞のゲノムに標的配列を1コピー含むように導入し、さらに、細胞周期をG1期で停止させてから分注する、という手法を用いた。これにより、原理的には1コピーの標的配列が含まれるように調製することは可能なように思われる。しかしながら、あくまでも細胞レベルでの制御であり、DNAレベルでの制御にはなっていなかった。そこで、各ウェルに確実に1コピーの標的配列が存在していることを確認するために、標的配列とは別の確認配列をゲノムに複数コピー導入する手法を採用した。今年度は、このような細胞を作出するための導入遺伝子コンストラクションを行った。一般的に、20コピー以上のDNAは検出可能かつ定量可能であると考えられている。そこで、本研究では、32コピーの確認配列を導入する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、細胞に導入するための導入遺伝子コンストラクションの構築を行う予定であった。細胞に確認配列を複数回繰り返して導入する必要があるが、導入のための繰り返し配列構築にやや苦戦している状況にある。遺伝子コンストラクションについては、様々な試薬メーカーが任意の塩基配列をもつ人工遺伝子を受託合成しているが、繰り返し配列は敬遠されている。実際、申請者が複数のメーカーに本研究で対象としている配列の合成が可能か打診したところ、全ての企業から“極めて困難である”との回答を得た。このような理由としては、繰り返し配列の構築には、オーバーラップエクステンションPCR法のような簡便な遺伝子クローニング法が利用できず、配列一つ一つをライゲーション反応等で別々に導入する必要があること、さらに、繰り返し配列を導入することによる遺伝子コンストラクション内での立体障害の発生等の懸念が挙げられる。また、本研究の計画段階では、繰り返し配列を標的にPCRを行う際、隣り合った確認配列同士で非特異的増幅が発生することが危惧された。そこで、このような増幅を抑えるために、確認配列間に2 kb以上のスペーサー配列を挿入し、十分に距離を保ってゲノムに導入するように設計しているが、各確認配列の間に長いスペーサー配列を導入することによって、遺伝子コンストラクションそのものが非常に長くなってしまい、それに伴いライゲーション反応の効率が落ち、ライゲーション後のシークエンスの確認にも時間を要することになった。最終的には、32個の確認配列を導入する予定であるが、現在は8個まで導入が終了している。
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今後の研究の推進方策 |
最終的には、確認配列が32個つながった遺伝子コンストラクションを構築する。確認配列導入方法については、現在利用している古典的なライゲーション法だけではなく、In-fusion等の、より効率的な技術を導入する予定である。このようなコンストラクションを細胞に導入し、標準細胞とする。万が一、標準細胞が二つ入ってしまった場合には、PCRによって1コピーと2コピーの差を検出することは困難であることが予想されるが、確認配列は32コピー導入されていることから、細胞が二つ入った場合には64コピーとなり、32コピーとは有意な差が検出されるはずである。さらに、ゲノムの複製が終了し、分裂直前の細胞、すなわち、1つの細胞にゲノムが2コピー存在するような場合においても判別可能となり、細胞レベルではなくDNAレベルでの厳密な制御が可能となる。このような標準細胞に、様々なPCR検査に用いられている標的配列を導入し、PCRによる1分子の検出性能を正確に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で重要となってくる繰り返し配列の構築については、当初はスペーサー配列を人工遺伝子合成で外注する予定であったが、様々なゲノムデータベースから適当な配列を選抜し、自らPCRによってクローニングし、より安価に構築を行った。しかしながら、次年度以降は、スペーサー配列の数が増えることから、人工合成の外注は避けられないと予想される。
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