研究課題/領域番号 |
21K05501
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
花俣 繁 新潟大学, 自然科学系, 特任助教 (00712639)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | オートファジー / イネ / α-アミラーゼ / 胚乳 / 高温障害 / バイオイメージング |
研究実績の概要 |
イネの種子登熟過程の異常高温によるα-アミラーゼの発現は、玄米外観品質の低下を促し、その制御機構の解明は、高温障害の緩和及び耐性品種の開発に直結する。本研究は、登熟期に高温障害を受けた状態を模倣したかのような性質を示すイネのオートファジー機能欠損変異体Osatg7に着目し、α-アミラーゼの発現・局在部位を可視化し、澱粉代謝関連酵素を含む遺伝子発現ネットワークをマルチオミクス解析することでオートファジーを介したイネのα-アミラーゼの発現制御機構の解明を目指す。本年度は、以下の3点を中心に解析を進めた。 (1)α-アミラーゼの発現部位の可視化解析に関して、全てのα-アミラーゼについて、プロモーター配列の下流にGUSレポーター遺伝子を挿入したベクターを構築し、高温で発現上昇が知られる分子種について、形質転換体を作出した。α-アミラーゼの発現上昇が期待される発芽段階において、GUSレポーター遺伝子の発現を確認した。 (2)各種オミクス解析に関して、必要なイネの栽培と登熟種子のサンプリングとサンプル抽出条件の検討を行った。温度制御可能な自然光のバイオトロン群を利用し、野生型株及びOsatg7変異体を栽培し、開花後に高温区に移動することで、平温・高温登熟種子をサンプリングし、RNAを抽出した。ペプチドミクス解析のためのサンプル調整および抽出条件を検討した。 (3)栽培環境の違いがOsatg7の稔実に与える影響について調査した。圃場および自然光のバイオトロンにおいてごく低頻度でOsatg7の稔実が確認された。一方で、人工光の閉鎖温室ではOsatg7は完全不稔を示し、日長条件の段階的な変化が種子稔実に影響する可能性が考えられた。同時に、オートファジー関連遺伝子の過剰発現が高温登熟による玄米白濁化に与える影響について解析し、一部の遺伝子の過剰発現が高温障害を緩和する可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イメージング解析を用いた、イネ登熟種子におけるα-アミラーゼの発現部位の解明に関しては、高温登熟での発現が報告されている3つの分子種(Amy1A, Amy1C, Amy3D)を先行してOsATG7ヘテロ株に導入し、Amy1A, Amy1Cについて種子発芽時のα-アミラーゼのプロモーターの活性を検出した。発芽イネ種子で活性が検出されなかったAmy3Dについては導入したベクターに問題がないか現在精査している。一方で、登熟種子での解析については、人工光の閉鎖温室においてOsatg7が完全不稔を示したことから、日長を含め、稔実種子を得るために新たに条件検討が必要となった。 細胞内局在部位の解明に関しては、GFP融合遺伝子ベクター構築と形質転換について、当初の計画から若干遅れている。一部のベクターは既に完了しており、順次形質転換を進めることで、次年度は研究通り計画が進むと想定している。 胚乳発達ステージ毎の遺伝子発現プロファイリングに関しては、当初の計画のマイクロアレイからRNA-seqへ解析方法の変更を検討したため、解析が遅れている。一方、サンプル調整は既に完了しており、次世代シークエンサーによる発現解析をまとめて行うことで、次年度は計画通り研究が進むと想定している。 ペプチドミクス解析に関しては、TCA沈殿によるタンパク質の沈殿およびその上澄みをC18カラムにより脱塩することで、ペプチド画分として抽出するための条件検討を行ったが、過剰なタンパク質の完全な除去には至っていない。次年度は、限外ろ過などを組み合わせた抽出条件の検討を行うだけでなく、オートファジーで分解が期待される特異的基質や遺伝子コード型のプローブセンサーの利用など、様々な手法によりオートファジーを介した胚乳タンパク質分解の検証を進める予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、(1)トランスクリプトーム解析による胚乳発達ステージ毎の遺伝子発現プロファイリングを進めるとともに、自然光の閉鎖温室の利用や人工光の閉鎖温室、グロースチャンバーの日長を自然光に合わせることで、(2)Osatg7登熟種子のα-アミラーゼの発現・局在部位について解析を進め、登熟期に高温を与えた、野生型株のα-アミラーゼ発現部位とOsatg7登熟種子のアミラーゼの発現部位をイメージング解析により精査する。(3)解析が遅れているα-アミラーゼプロモーターGFP融合遺伝子について、順次形質転換を進め、登熟期の胚乳細胞内局在について高温による細胞内局在の変動やオートファジーによる分解の可能性を含めて解析する。一方、オートファジー変異体でのみ発現上昇が認められる分子種についてもレポーター遺伝子の導入を行い、高温登熟による発現と比較することで共通性・相違性を特徴付ける。(4)ペプチドミクス解析のためのサンプル調整については、引き続きサイズ分画も加えて調整を試みる。また、質量分析器に依らない特定タンパク質の分解の検出について、プローブの設計を含めて検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
登熟種子のトランスクリプトーム解析について、当初はR3年度、R4年度の2回に分けてマイクロアレイ受託解析を行う計画であったが、データを比較解析する上で、1度に実施することが望ましく、また、解析方法を検討したところ、マイクロアレイよりもRNA-seqがより多くのデータを得られると判断した。そのため、次年度への繰越予算が生じた。また、旅費について、当初計画よりも進展が遅れたため本年度の研究成果発表を断念した結果、次年度への繰越予算が生じた。 本繰越予算とR4年度予算を併せ、次年度は実験試薬の購入・旅費・RNA-seq受託解析費・英文校閲費等への支出を計画している。
|