本研究の目的は、リーダーレスタンパク質(小胞体シグナルペプチドを持たないままにもかかわらず小胞体膜上に存在するトランスロコン(Sec61)を通過して小胞体内へ輸送されるタンパク質)の小胞体輸送機構の解明である。以前までの研究で、出芽酵母ste24遺伝子破壊株においてリーダーレスタンパク質の小胞体内へ輸送が亢進することがわかっていた。本研究では、リーダーレスタンパク質の小胞体内へ輸送におけるSte24タンパク質が持つ抑制機能の解明を試みた。Ste24はプロテアーゼであることから、Ste24タンパク質によってリーダーレスタンパク質が切断されるのではないかと推測した。断片化されたリーダーレスタンパク質の検出を試みたところ、Ste24の存在に依存する形で断片化されたリーダーレスタンパク質が検出された。つまり、Ste24はプロテアーゼとして、小胞体膜に近接したリーダーレスタンパク質を切断することで、その輸送を抑制すると示唆された。続いて、リーダーレスタンパク質に存在する“何”が輸送に影響するのかの解明を試みた。以前の研究結果と文献情報から、リーダーレスタンパク質中及びSec61中に存在するシステイン残基が一過的なジスルフィド結合を形成することでリーダーレスタンパク質が輸送されるのではないかと仮説を立てた。リーダーレスタンパク質及びSec61のシステイン変異体発現株を作製して検証した結果、どちらのシステイン変異体のときでも輸送抑制が起こることが明らかになった。したがって、リーダーレスタンパク質中及びSec61中に存在するシステイン残基が小胞体内への輸送に寄与することが明らかになった。一方で、両者の直接のジスルフィド結合を確認するには至らなかった。最後に、本輸送経路で分泌されると予想したヒトSOD1の解析を試みた。解析の結果、ヒトSOD1が小胞体内へ輸送され得ることが明らかになった。
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