研究課題/領域番号 |
21K05504
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
西村 明 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (30781728)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プロリン資化 / アルギニン / 酵母 / Saccharomyces cerevisiae / トランスセプター |
研究実績の概要 |
酵母Saccharomyces cerevisiaeは酒類醸造に用いられ、酵母による原料の資化(細胞内への取込みと代謝)は多様な味・風味を生み出す。プロリン(Pro)はブドウや麦汁などの原料に最も多く含まれるアミノ酸であるが、酵母はProをほとんど資化できない。そのため、発酵後も最終製品中に多量に残存し、酒質を低下させる。我々は過去に外部環境に存在するアルギニン(Arg)がPro資化抑制因子として働き、Proの主要な取込み系トランスポーターPut4のエンドサイトーシス分解を誘導することを見出した。しかし、これまでArgによるPut4エンドサイトーシスのシグナル伝達経路は解明されていない。 まず、アルギニン存在下でもプロリン資化が可能な変異株の分離を試み、4株を取得した。これら4株の全ゲノムDNA配列を決定したところ、全ての株でArgトランスポーターCan1をコードする遺伝子にアミノ酸置換を伴う変異を見出した。また、これらのCan1変異体を解析した結果、Argトランスポーター活性は、Pro資化抑制の制御と無関係であることが明らかになった。近年、トランスポーターの中で輸送活性以外に外部環境因子の受容体活性を持つタンパク質が報告されている。このような受容体様の機能を併せ持つトランスポーターは「トランスセプター」と呼ばれ、炭素源応答の主要制御系であるProtein kinase A(PKA)シグナルをcyclic AMP (cAMP)非依存的に活性化する。そこで、Can1もトランスセプターである可能性を考え、Arg添加時のPKAシグナルの活性化レベルを検討した。その結果、Arg添加によってCan1依存的にPKAシグナルが活性化することが判明した。また、その活性化はcAMP非依存的に起こることが示された。以上のことから、ArgはCan1依存的にPKAを活性化させ、Pro資化抑制の制御を行っていることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、プロリン資化抑制に関与する遺伝子の同定に成功した。また、トランスセプターCan1がプロリン資化抑制を調節していることもわかり、研究計画は順調に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
トランスセプターCan1がプロリン資化を制御していることは判明したが、そのメカニズムは全く不明である。トランスセプターの下流にはPKA経路が存在するため、今後はPKAとプロリン資化の関連を解析していく。まずは、RNAseqや網羅的なタンパク質リン酸化解析を通して、アルギニン存在下でどのようなPKA下流シグナルが動くかを検討する。候補シグナルに関しては、遺伝子破壊などを行いプロリン資化制御への寄与を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
変異株のスクリーニングが当初の予定より効率よく行うことができ、消耗品費の節約ができた。また、コロナ蔓延により学会がweb開催となり、旅費が想定より使用しなかった。 上記の余剰予算を活用し、分析キットや抗体を購入し、実験計画を迅速に進める予定である。
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