本研究は、実験的に得られたNCPの位置情報をソフトウェアレベルで補正する手法の確立を目指している。 前年度に引き続き、ケミカルマッピングによる技術的バイアスを詳細に検討し、ハイブリッド確率モデルによる予測結果について検証した。これまでに、出芽酵母の遺伝子ではDNAの配列がヌクレオソーム配置に最適化されるようデザインされていることを見てきたが、1番目のヌクレオソーム(+1ヌクレオソーム)のプロモーター側でのヒストンとDNAの相性が相対的に高いことについて、その意味がわからなかった。手がかりを得るためmRNAの5'末端を定量的かつゲノムワイドに調査した。その結果、性特異的な遺伝子を含めて、多く遺伝子のTSSを塩基対解像度で定量的に同定することができた。また、+1ヌクレオソームのDNAのヒストンに巻きついた部分から転写が始まることを見出した。ヌクレオソーム内部に見つかる転写開始位置(TSS)について既報と比較すると、実はより内部にTSSが存在していた。出芽酵母のTSSの8塩基上流にはアデニンが頻出することが知られているが、このアデニンを持たないプロモーターに注目すると、TSSは+1ヌクレオソームの回転設定と関係することが明らかになった。この傾向はマウスの研究でも示唆されているが、まだ深く追求されていない。酵母の場合、少なくとも2通りのTSS決定要因があるらしく、その1つは8塩基手前のアデニン、もう1つはヌクレオソームとの空間的関係と言える。今後は、変異体を用いた解析や、多種生物を対象とした研究を進め、転写開始要因についてさらに検討したい。
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