研究課題/領域番号 |
21K05513
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
久保山 勉 茨城大学, 農学部, 教授 (10260506)
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研究分担者 |
一谷 勝之 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (10305162)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 雑種強勢 / ヘテロシス / イネ / Oryza / 初期生育 / 生体重 |
研究実績の概要 |
ハイブリッド品種の育成において,組合わせによる雑種強勢(ヘテロシス)の程度を評価することは重要であり,もし,苗の段階でヘテロシス程度を評価することが可能となればハイブリッド育種をより効率よく実施することができる.また,イネの初期生育は直播における課題であり,重要な育種目標の一つである.そのため,令和3年度は,イネの幼苗期における雑種の成長を測定し,生育初期における生体重ヘテロシスを評価することを目的に研究を行った.世界のイネ品種コアコレクション69品種と台中65号を交雑し,交雑種子を得た.交雑種子を無菌播種後,雑種幼植物をガラス管ビン中の培地で栽培した.播種後10日目の幼植物で植物体の全生体重とシュート生体重を測定し,生育初期に見られる生体重のヘテロシスを評価した.現在,評価が終了している交雑組み合わせの中には両親の平均シュート生体重(0.135g)を100%とすると雑種の平均(0.324g)が240%となる強いヘテロシスを示すものもあった.一方で,両親の平均(0.146g)に対して雑種の平均(0.07g)が48%となるような弱勢を示す組み合わせも見られた.また,ヘテロシスの強さと遺伝的距離の関係を塩基置換数を指標に調査したところ,台中65号と遺伝的に遠い品種の中にはヘテロシスが強く現れるものと現れないものが含まれており,遺伝的距離との相関関係は認められなかった.一方で,遺伝的に距離の近い系統間ではヘテロシスが強く出る組み合わせが見られず,強くヘテロシスが現れるには一定程度の遺伝距離が必要であることを示唆する結果であった.また,T65はjaponicaに属するが,イネの生育初期に強く生体重のヘテロシスが現れたのはいずれもjapaonicaではなく,indicaやausに属する品種であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界のイネコアコレクションとの雑種強勢程度を評価する実験は順調に進んでおり,令和3年度に全ての組み合わせで交雑種子を得ることができたため.今後は,雑種の栽培を行い,ヘテロシスの程度を評価し,GWASや戻し交雑集団におけるQTL解析,雑種における18S rDNAのメチル化程度の比較などを実施する基盤が構築できたため.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に調査できなかった交雑組み合わせで両親と雑種の初期生育について調査を継続する.69系統の調査が終了したら世界のイネコアコレクションの品種においては,リシーケンス解析による遺伝子型情報が公共のデータベースから得られるため,雑種強勢(ヘテロシス)の調査結果を用いてGWAS解析を行い,ヘテロシスに関連する染色体領域を特定する.さらに,雑種強勢の強く現れた系統と雑種強勢が顕著でない系統を栽培し,定植後1ヶ月でバイオマスを評価し,播種後10日でのヘテロシスと定植後1ヶ月でのヘテロシスの相関関係を調査する. また,当初,ヘテロシスが強く現れる組み合わせで組換え近交系を育成する予定であったが,時間がかかりすぎて,研究期間内に実験が終了しないため,育成を中止し,BC1F1世代での解析を行う.生育初期の生体重においてヘテロシスが強く現れた雑種系統において,台中65号との戻し交雑を行い,BC1F1世代の植物を96個体以上栽培する.播種後10日目の生体重を計測し,全染色体をカバーする150個程度のDNAマーカーで遺伝子型を決定した後,QTL解析を行い,播種後10日目の生体重におけるヘテロシスに関する染色体領域を探索する. 日本晴とKasalathの雑種で播種後5日目に18S rDNAの5'領域のバイサルファイトシーケンス解析を行い, 両親と雑種でDNAメチル化の状態を調査する.また,同一サンプルからRNAとDNAを抽出し,18S rRNAの量とDNA量の比を算出し,メチル化と18S rDNAの転写産物の蓄積量との関係を調査する.同様に初期生育ヘテロシスが強く現れた組み合わせ,現れなかった組み合わせにおいても18S rDNAのメチル化について検討し,雑種強勢と18S rDNA5'側メチル化の関係について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった物品が定価の改定によって当初の予算では購入出来ないことになったため,前倒し請求で翌年度の予算60万円を使用した.そのため,可能な限り翌年に繰り越せる金額は繰越そうと努力したが,2万円程度しか繰り越せなかった.令和4年度はこの2万円を有効に活用し,遺伝子型を決定するためのDNAマーカー作製費等に使用する計画である.
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