研究課題/領域番号 |
21K05526
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高梨 秀樹 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (60707149)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ソルガム / 小穂 / 二粒化 / QTL解析 |
研究実績の概要 |
近年ソルガム子実の需要は上昇を続けているものの、その子実生産増加に資する研究は非常に限られていた。申請者はソルガム遺伝資源から小穂当たり二粒の子実を稔実させる珍しい双子(Twin)系統X [通常系統は一粒(Single)しか稔実しない] を見出し、この性質は子実増産に最適なのではないかと考えた。遺伝学的解析を行うために通常Single系統とTwin系統Xの交配によりF2集団を作出したところ、その過程で本形質は一遺伝子支配であり、かつ予想とは異なりこのTwin形質は優性であることが明らかになった。本研究ではこの責任遺伝子として優性Twin化遺伝子(DTI: DOMINANT TWIN INDUCER)を想定し、これを同定することを目指している。 今年度はF2集団384個体を展開し、各個体について出穂後の小穂をサンプリングし、実体顕微鏡下でそれらの小穂を解剖することでTwin/Singleの形質評価を行った。その結果、形質の分離比はTwin : Single = 76% : 24%となり、今回の栽培試験においても当小穂形質は双子が優性の一遺伝子支配であることが確認された。また並行してRAD-seq法を用いて全個体のジェノタイピングを行い、これらのデータを用いてQTL解析を行ったところ、第六染色体末端部に非常に効果の大きいQTL(qDTI)が検出された。LOD値が166であるこのqDTIは寄与率がほぼ100%といえる非常に高い数値(99.96%)を示しており、このことは本QTLに存在するDTI遺伝子がソルガムの双子化形質を単独で支配していることを強く示唆している。 現在、qDTI領域周辺で組換えが生じていると考えられる個体群を選抜し、既に解読済みの両親系統の全ゲノムデータから設計したindelマーカーを用いたPCRジェノタイピングによってDTIのファインマッピングを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を申請する段階では、新たに栽培試験を行った解析集団に対して予備的解析と同様QTL-seq解析をより大規模なバルクで行うという計画であったが、その後検討を重ねた結果、以下の理由から、QTL-seq解析よりも全個体をRAD-seq法によってジェノタイピングし、これを用いてQTL解析を行う方が多くの面でメリットがあるという結論に至った。 その理由としては、バルクでシーケンスを行うQTL-seq法では比較的容易に候補領域を検出できるものの、個体ごとのジェノタイプデータは取得できないため、候補領域検出後のファインマッピング実験に用いる最適な個体を選ぶことができず、結果責任遺伝子候補の選抜がスムーズに行えない点が挙げられる。また、個体ベースのジェノタイプデータが得られないという点は、申請書にも記載したNILsを用いた「Twin化に付随する弊害およびDTIが子実形質以外に及ぼす影響についてその有無を検証」を実施する際にも弊害になる(最適なジェノタイプの母本を選抜して交配あるいは自殖を行う必要があるが、個体情報の不在によりその選抜ができない)。 RAD-seq法では全個体について個別にライブラリ作製を行うという手間はあるものの、個体ごとのジェノタイプデータが得られるという利点を考えるとその苦労は十分意味があると考えられたため、方針を変更してRAD-seq法によるジェノタイピングを実施した。修正したプランに従って行ったQTL解析では、期待通り非常に効果の強いqDTIが検出でき、また責任遺伝子が含まれると思われる信頼区間も予備的解析時より大幅に狭めることが出来たため、今回のプラン修正は大きな成功を収めたと言える。個体ベースのジェノタイプデータが存在するためファインマッピング用の個体選抜もスムーズに進み, 現在多数のindelマーカーを用いたPCRジェノタイピングを精力的に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はファインマッピングにより限界まで候補領域を狭めた後に、該当領域の両親系統の全ゲノムデータを精査することで責任遺伝子候補を選抜していく。ただし、qDTI周辺においてTwin系統Xのゲノム構造がリファレンス系統と大きく異なり(大規模な挿入があるなど)、その部分に責任遺伝子DTIが存在していた場合、通常のリシーケンスデータ(系統Xのショートリードをリファレンスゲノム上に貼り付けたものであり、したがって系統Xのゲノムにリファレンスゲノムには存在しない領域があった場合、その部分のショートリードはリファレンスゲノムにマップされず可視化できない)を精査するだけでは責任遺伝子が見えてこない可能性もある。これらも考慮に入れ、狭めた候補領域内にそれらしい責任遺伝子候補が存在しなかった場合には、系統Xのゲノムに対して候補領域全体を複数のロングPCRで網羅・増幅し、これらをロングリードシーケンサーにより配列決定しその中で遺伝子を探索するなどの対策も検討している。 有望な責任遺伝子候補が選抜出来次第、ノックアウトあるいは相補試験のためのソルガム形質転換体を作製し、DTI遺伝子の同定を目指す。また、イネに対する形質転換体も作出し、双子化メカニズムが種間で保存されているかについての検討も行う。並行して、ファインマッピングに用いたジェノタイピングプライマーを流用し、qDTIについてのNILsの作出・選抜も進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
依然としてコロナ禍の影響が残っており、出張が減少したため旅費において差額が生じた。また実験試薬(消耗品)についても研究室における在庫が十分ありそれから消費していったため、今年度は消耗品費についても差額が生じている。差額分を含め、ファインマッピングやロングリードシーケンス(オプション)費用に活用していく予定である。
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