本研究は、薬剤処理や遺伝子機能の改変によって異常な形やサイズの胚乳細胞を生み出し、その分化の様子を調べることで、細胞の形態が分化に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。今年度は、まず胚乳細胞の分化の状態を成熟種子の染色によって調べる方法の検討を行った。その結果、テトラゾリウムおよびナイルレッドによってアリューロン層が、またイソジンによってデンプン蓄積細胞がそれぞれ染色され、これらの染色法によって分化状態を観察できることがわかった。続いて、胚乳細胞の形態に異常を起こすための薬剤処理の条件検討を行った。これまでの知見から、胚乳細胞の形成に関わる多核化や細胞化には微小管の動態が重要な役割を果たすことが示唆されている。そこで植物の微小管の重合や脱重合を阻害する薬剤を、多核化や細胞化が起こる時期の野生型イネの子房に投与し、胚乳細胞の形やサイズの改変を試みた。微小管重合を阻害するオリザリンおよび脱重合を阻害するタキソールを、様々な濃度またはタイミングで投与したものの、胚乳細胞の形態に異常は見られなかった。今後は他の薬剤についても検討し、薬剤処理による改変が難しい場合は、研究計画で記述した遺伝子操作による改変を検討する。薬剤処理実験と並行して、微小管を蛍光タンパク質によって可視化した形質転換イネの作出も行った。シロイヌナズナのβ-チューブリン(TUB6)とGFPまたはmCherryの融合タンパク質を、植物体全体で働くユビキチンプロモーターで発現させたところ、根の細胞内の微小管を可視化することに成功した。しかし胚乳細胞の微小管を可視化することはできず、胚乳細胞で働くプロモーターの探索が必要であると考えられた。
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