研究課題/領域番号 |
21K05533
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
栂根 一夫 基礎生物学研究所, 多様性生物学研究室, 助教 (50343744)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イネ / 大粒 / トランスポゾン / 優性 / 顕性 / RNA結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
イネ内在性で活発に転移するDNAトランスポゾンnDart1を利用して新規のイネ突然変異体を選抜している。顕性(優性)で種子が大粒化するLgg変異体の原因遺伝子はRNA結合ドメインを持つタンパク質であった。Lgg変異は粒の縦が主として伸長し、横幅は野生型と変わらず、そのヘテロ変異は中間型を示すincomplete dominanceであった。ほ場においてLgg変異体の85個体のF2集団を育成して、大粒の性質を解析したところ、Lgg変異体の粒の長さの平均は、5.42mmであったのに対して、分離した野生型は4.95mmであった。ヘテロ型は中間型の5.15mmとなった。このLggの大粒化の原因が、細胞数の増加なのか、細胞の大きさの違いなのかを籾および種子の細胞の大きさを指標にして観察を行ったところ、細胞の大きさを変えず細胞の数が増えていた。 顕性であるがLgg変異は原因遺伝子の発現の抑制だった。LGGの発現量を強く上昇させた個体は再生してこなかったので、弱く上昇させた形質転換体を作出すると小粒化した。野生型LGG遺伝子の発現は、幼穗の全長が0.6mmの時に発現のピークとなっており、穂の形成初期に機能している可能性が示唆された。LGG遺伝子と同じRNA結合タンパク質グループは翻訳抑制が報告されていることから、LGGは翻訳抑制によって種子の細胞数を制御しており、他方で標的となるmRNAは細胞分裂を促進していると想定できる。細胞分裂の制御で種子の大きさを変える遺伝子の働きを解明する。主として2つのプロジェクトを立案した、1つはイネ個体内でのLGGタンパク質の動態の解析を行うためにLGG抗体を作成しタンパク質の量を組織別に明らかにするものである。2つ目はLGGタンパク質の標的mRNAをin vitro・invivoで探索するもので、LGGタンパク質と相互作用する核酸を選抜する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞内でのLGGの局在の解析・LGGのN末又はC末にGFP を融合したコンストラクトを作成して、イネのカルスで確認した。それぞれ核への局在を示す予備的な結果を得た。一方で再生してきた植物では細胞内の小器官への蓄積の可能性も 示唆されたので、より詳細な解析をおこない細胞内で機能する場所を明らかにする。 また、発現タンパク質のアグリゲーションが観察されたので、抗体の作成のためには、低温誘導ベクターを用いたコンストラクトを作成した。 LGGと相互作用する核酸を選抜するためには、核酸の選抜に実績のあるcーcmycと融合したLggベクターを作成した。
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今後の研究の推進方策 |
プロジェクトA1 イネ個体内でのLGGタンパク質の動態の解析・LGG抗体を作成しタンパク質の量を組織別に明らかにする。またGUS遺伝子をLGGのコーディング領域に遺伝子ターゲティングによってKnock-inした形質転換植物を作出する。 A2 細胞内でのLGGの局在の解析・LGGのN末又はC末にGFPを融合した形質転換カルスを作成し、核への局在を示す予備的な結果を得た。一方で再生してきた植物では細胞内の小器官への蓄積の可能性も示唆されたので、細胞内で機能する場所を明らかにする。 A3 LGGパラログ遺伝子の機能解明・イネゲノムにはLGG遺伝子のパラログが1コピー存在しているので、機能の冗長性が考えられる。ゲノム編集において欠損変異体を作出したが、シングルの変異では大粒化などの影響は観察されなかったので、LGGとの2重変異体を作出して表現型の変化を調べる。 プロジェクトB1 LGGの標的mRNAをin vitroで探索・大腸菌において発現させたLGGタンパク質と相互作用する核酸を選抜する。合成した短いランダムな核酸配列とLGGタンパク質を相互作用させ同定するHT-SETEX法を用いる。 B2 LGGの標的mRNAをin vivoで探ヒスチジン融合LGGタンパク質を発現させたイネから結合したRNAを同定する方法とLGG抗体を用いて免疫沈降させて標的RNAを同定するRIP方法を検討し、得られたRNA配列をRNA-seqで配列を同定する。 B3 LGGの標的mRNAの同定・B1とB2から得られた結果を比較検討し、候補のmRNAをLGGタンパクとの結合をゲルシフトアッセイで結合を評価する。候補遺伝子とGFPの融合したコンストラクトをイネに導入し、GFP抗体を用いて翻訳抑制について評価を行う 。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19感染が広まった状況下において予定していたほ場での植物の育生と学会発表の実施に係わる旅費の執行および実験補助従事者の雇用が思うように進まず、差額が生じた。 2022年においては、ほ場における定点観察の実施と実績のある研究者への評価を依頼している。実験補助従事者についても募集を続けるが、無理な場合も想定しており、研究を外部御者に依頼して進める予定である。
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