研究課題/領域番号 |
21K05535
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
横井 彩子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (10760019)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ジーンターゲッティング / ゲノム編集 / DNA修復 / テロメア / イネ |
研究実績の概要 |
ゲノム編集技術の一つであるジーンターゲッティング(GT)は、DNA修復経路の一つである相同組換えを介して標的遺伝子を望み通りに改変できるため、植物の基礎研究や作物育種の加速化に非常に重要な技術である。代表者はこれまで、広範な作物種に適用できる汎用的GT系を確立するためにGT効率の簡便な評価システムを構築し、GT効率を向上させる化合物処理や鋳型配列のデリバリー系の開発を行ってきた。その中で、Poly (ADP-ribose) polymerase (PARP) 阻害剤処理や分割型Transferred DNA (T-DNA) でGTの鋳型配列をデリバリーすることによってGT効率を向上できることを明らかにしてきた。そこで本課題では、これら2つのアプローチによりGT効率が向上する現象のメカニズムを解明し、その知見からGT実験系のファインチューニングを行い、更なる高効率化とより実効性のある実験系の確立を目指す。 令和4年度は、PARP阻害剤処理によるGT効率向上の機構を明らかにすることを目的として、昨年度CRISPR/Cas9システムにより作製したOsPARP1およびOsPARP2Aノックアウトイネを用いて、T-DNA挿入頻度の解析を行うとともに、野生型イネカルスのPARP阻害剤処理がT-DNA挿入頻度に及ぼす影響も解析した。また、PARPの阻害により相同組換え効率が向上するかどうかを評価するため、レポーターの発現により相同組換え効率を簡便に評価できるレポーター系を導入したイネ系統を確立した。分割型T-DNAによる鋳型デリバリーがGT効率を向上させる機構を明らかにするため、分離型および一体型GTベクターを用いて昨年度に作出したGT個体を用いてDroplet Digital PCR(ddPCR)により鋳型コピー数の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イネのPARPタンパクは、4つの遺伝子がホモログとしてゲノムにコードされているが各タンパクの機能分化についてはほとんど明らかにされていない。本研究では、機能欠損によってGT効率向上につながるPARPホモログを特定するため、各遺伝子のノックアウトイネをCRISPR/Cas9によって作出した。今年度は、恒常的に発現しているOsPARP1とDNA損傷に対して著しく発現誘導されるOsPARP2Aのノックアウトイネカルスを用いて、T-DNA挿入が生じたことをレポーターの発現としてモニターできるレポーターコンストラクトを形質転換することで評価した。その結果、野生株とこれらの変異体におけるT-DNA挿入頻度は変わらなかった。また、野生型イネカルスをPARP阻害剤処理することによってもT-DNA挿入の抑制は見られなかった。このことから、PARP阻害剤処理によるGT効率の向上はT-DNAのランダム挿入の抑制によるものではないことが示唆された。そこで、PARP阻害剤によるGT効率向上が相同組換え効率の向上に起因するかどうかを評価するため、相同組換え効率評価系ベクターを構築し、形質転換イネ系統を作出した。 分割型T-DNAによる鋳型デリバリーがGT効率を向上させる機構を明らかにするため、分離型および一体型GTベクターを用いて作出したGT個体においてゲノムに挿入されている鋳型のコピー数をddPCRにより解析した。その結果、一体型ベクターは鋳型配列もそれ以外の領域と同じコピー数しかゲノムに挿入されていないのに対して、分離型ベクターは鋳型配列を載せたT-DNAがもう一方のT-DNAより高コピーでゲノムに挿入されていることが明らかとなった。この結果から、分離型ベクターの利用でGTの鋳型配列を高コピーでデリバリーできることを証明できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究結果より、PARP阻害によるGT効率の向上が相同組換え頻度の向上によるものであることが示唆されたことから、今年度作出した相同組換え効率評価系イネ系統を用いてPARP阻害剤処理あるいはイネPARPホモログのノックアウトによる相同組換え効率に及ぼす影響を評価する。また、GT効率向上にはPARPだけでなくDNA修復経路の一つである非相同末端結合経路の阻害が有効であることが考えられるため、本課題で作出した相同組換え評価系イネ系統を用いて様々な非相同末端結合経路阻害剤処理が相同組換え効率に及ぼす影響も評価する。 今年度の研究結果より、分離型ベクターの利用でGTの鋳型配列を高コピーで細胞にデリバリーできることが明らかとなった。これに関してさらに詳細な知見を得るため、他のGT系統においてもddPCRを用いて鋳型配列のコピー数の解析を行う。より実効性のあるGT系の確立のためには、細胞内に高コピーのT-DNAをデリバリーしつつも、それらをゲノムに挿入させない工夫が重要となる。そこで、ペアのテロメア配列をT-DNAの末端に付加したテロメアベクターに選抜マーカー遺伝子およびレポーターとしてルシフェラーゼ遺伝子を配置したテロメアベクターの構築に取り組んでいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
雇用予定だった契約職員の雇用をすることができず、人件費として計上していた予算の一部が次年度使用額として生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせて、人件費、物品費として使用する計画である。
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