研究実績の概要 |
今年度は前年度に行った栄養成長期および穂ばらみ期による潮風害の影響に加えて,開花期および登熟期においても潮風害実験を行った.昨年と同じ作成した簡易風洞で0, 2 4m/sの風を与えながら,海水とほぼ同程度の濃度(3.15%)の食塩水を該当時期に散布し,数品種のイネについて潮風害の影響を調査した.今年は風による葉の擦傷を模擬的に再現するために,イネの葉同士を人為的にこすり合わせる処理も追加した.熱線風速計で穂の周囲の風速を経時的に測定し,処理日とその1週間後に乾物重,SPAD値などを測定した.昨年は栄養成長期および穂ばらみ期における塩分処理によって乾物重やSPADは低下したのに対し,今年度において,開花期および登熟期の塩分処理では明確な差が検出できなかった.ハナエチゼンなどでは風速が高くなるにともない,乾物重がむしろ増加した.これは2023年は実験地・松江市は37℃を超す高温が襲来し,対照区も高温障害を受けた結果,強風がかえって高温障害を抑制したとも考えられた.葉をこすり合わせる処理はみかけの観察では葉の老化が早まり,成長が抑制されたように見えたが,乾物重やSPAD値において有意差は検出できなかった.風による葉同士の裂傷を人為的に再現する方法として見込みはありそうだが,さらなる改良が必要と考えられた. 穂ばらみ期においても潮風害処理を今年度も行い,次のような品種間差異を検出した.潮風害の影響を受けなかったヒノヒカリに対して、ハバタキは潮風害の影響を受けて、地上部乾物重が低下した。しかし,ハバタキの穂の乾物重は潮風害の影響はあまり受けなかった。地上部乾物重に対する穂の乾物重の割合は地上部乾物重が低下した場合に高くなった.ハバタキは強風によって乾物生産量が低下した場合、1 穂穎花数の指標となる穂へ分配される乾物の割合を高めることによって、収量への影響を低減していると考えられた。
|