本研究では、地上(ムカゴ)と地下(新芋)に塊茎を形成し栄養繁殖するヤムイモのユニークな繁殖様式に着目し、これをダイジョ(Dioscorea alata L.)の生産性向上の鍵として栽培・育種に応用すべく、作物生理学的アプローチから塊茎形成・肥大メカニズムについて検討した。得られた成果は以下に要約される。
1) 新芋肥大: 短日処理後20-30日の間で塊茎肥大が開始することが明らかになった。FT-like遺伝子の発現パターンから、長日下ではDaFT1が塊茎肥大を抑制すること、並びに短日下ではDaFT2が塊茎の肥大成長を促進することが示唆された。暗期の赤色光により塊茎肥大が抑制されたことから、ダイジョの塊茎肥大には光周性があり、赤色光感知による短日応答にはFTを介した制御メカニズムが関与すると考えられた。新規育成した突然変異体群の中から、長日下で塊茎肥大する早生性の候補系統(12系統)を選抜できたため、現在それらのゲノム解析と形質評価を実施している。
2) ムカゴ形成: 土壌過湿に応答してシンク・ソースバランスが変化し、ムカゴの形成が促進することを実証した。本特性には、地下部での過湿感知をシグナルとして、地上部のアブシジン酸レベルが高まること、並びに新芋への転流抑制により地上部の同化産物蓄積が増加して、葉腋の糖濃度が高まることが関与すると考えられた。次いで、アブシジン酸に着目した遺伝子発現解析を行い、ストレスに応答して根と葉腋において特定のアブシジン酸生合成遺伝子の発現が高まり、これが他の植物ホルモンの生合成・代謝関連遺伝子の発現変動と同調することを見出した。現在、それらのクロストークに着目した解析を進めながら、ムカゴ形成を制御する栽培技術について検討している。
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