研究課題/領域番号 |
21K05543
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
豊福 恭子 秋田県立大学, 生物資源科学部, 特任助教 (80755033)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高温登熟障害 / 高温登熟障害耐性 / イネ / 早期選抜法 / 幼植物体 |
研究実績の概要 |
高温登熟障害耐性3品種(ふさおとめ・笑みの絆・にこまる),感受性3品種(初星・駒の舞・ササニシキ)に加えて耐性程度“やや強”の「ふ系227号」を加えた計7品種について,高温に対する初期生育の差を検証するため生育評価および水分生理形質の調査を行った。定植後14日目の地上部乾物重,草丈,根乾物重および根系諸形質は,各品種とも高温区の方が常温区より高い値を示した.特に感受性品種の草丈の高温区/常温区の値は高温登熟障害耐性品種と比べて有意に高い値を示した.根系諸形質に関しては,L型側根の発生数が各品種とも高温処理により増加していたが,高温登熟障害耐性品種の発生増加率はいずれも高かった.高温下でL型側根を増加させることで根系を拡大し吸水を維持していると推測されたため,高温登熟障害耐性品種の早期選抜項目の一つになり得る可能性が示唆された.一方感受性品種は高温処理によってL型側根よりも冠根数を増加させる傾向を示した.また,毎日同時刻に吸水量を測定した結果、14日目には「ふさおとめ」「笑みの絆」「初星」において高い吸水量が観察された. 高温登熟障害耐性程度の異なる品種を用いて,高温下の登熟期における同化産物の分配の特徴を明らかにする目的で安定同位体の13C暴露実験による炭素のトレーサー実験を試みた.その結果,高温登熟障害耐性程度が“強”の「笑みの絆」は高温下でも常温区と比べて炭素の分配比,光合成速度,乾物重比に大きな違いは見られなかった.対照品種として用いた高温登熟障害耐性程度が“中”の「コシヒカリ」 との差異が明らかとなり,高温下の登熟期に同化した炭素の植物体内での転流と分配に与える影響が,高温登熟障害耐性程度により異なることが明らかになり,今後選抜項目の一つになり得る可能性を検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに,高温登熟障害耐性・感受性計7品種のイネについての生育評価,酵素活性および遺伝子発現解析用のイネの栽培をインキュベーター内で実施した.可能な範囲で効率的に栽培を進めて同じ栽培サイクル中に複数の項目を調査するよう努力したが,後述する水分生理形質の分析を行うための栽培条件の構築に時間を要しているのに加え,研究室内のインキュベーターの使用状況の影響もあり想定より時間がかかっている.水分生理形質の項目については扉の開閉による気温・湿度の変化や水耕液の蒸発散の影響を受けやすい.そのため気孔コンダクタンス,根の生理活性を推測するための出液量の現在までの測定値は吸水量と同様の傾向を示したものの,更なる分析方法の改善によりデータの信頼が得られるようになると思われた.また高温処理による過剰生育への関わりについて,a-アミラーゼをはじめとした遺伝子発現量の比較定量解析を行っているが,全ての解析を終えるにはもう少し時間が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
高温登熟障害耐性程度の異なる7品種について,高温に対する水分生理形質等について手法を改善し精査を進める.これまでにわかってきた高温登熟障害耐性品種の高温下での根系発達特性と,蒸散の激しい高温下における吸水の維持について総合的に考察する.感受性品種の過剰生育にa-アミラーゼが関与する可能性を明らかにするために,上記7品種について催芽処理後2,7,14日間栽培を行ったサンプルについて,酵素活性および遺伝子発現量の比較定量解析をさらに進める.同様に,同じサンプルを用いて SOD活性および遺伝子発現量を比較定量解析することで,高温下での高温登熟障害耐性に抗酸化システムが関与する可能性を考察する. 「高温適応品種」の早期選抜法の確立を見据え,高温登熟障害耐性品種の形態学的特徴・水分生理形質・物質代謝機構・遺伝子発現など,幼植物体において選抜項目になりうる特性を見出し,その可能性を総合的に検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中の物品費の高騰を鑑み,購入にあたっては可能な範囲で安価な物品を選択し使用の節約にも努力した結果次年度使用額が生じた.物品費の高騰は引き続き次年度も予想されるため,その分に充てて計画的に研究費を使用したい.
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