研究課題/領域番号 |
21K05543
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
豊福 恭子 秋田県立大学, 生物資源科学部, 特任助教 (80755033)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高温登熟障害 / 高温登熟障害耐性 / イネ / 早期選抜法 / a-アミラーゼ |
研究実績の概要 |
根系の高温反応性の違いを調査する目的で,育苗期・栄養成長期・出穂期の各生育段階で高温処理を実施し根系の形態を中心に調査した.育苗期・栄養成長期は「ふさおとめ」が高温に対して生育の影響を受けにくかった.導管等の根の内部形態は有意な差は認められなかった。出穂期では根系乾物生産量は高温登熟障害耐性品種で減少傾向だったが,地上部乾物生産量は感受性品種より増加していた.高温下の出穂期では,高温登熟障害耐性品種は非同化器官より同化器官を増加させることで茎や穂へ光合成産物を優先的に分配しデンプン合成を維持していることが示唆され,このことが高温登熟障害耐性の違いに寄与している可能性が考えられた. 抗酸化活性が高温登熟障害耐性に関与している可能性から,その影響について実験を実施した.その結果,高温登熟障害耐性品種「ふ系227号」に関与するメカニズムとして,葉身では抗酸化活性物質の候補としてチアミンとピリドキシンが,穂では抗酸化活性の増加(ORAC値より)および抗酸化活性物質の候補としてピリドキシンが関与していることが明らかになった.他の品種の高温登熟障害耐性の違いは抗酸化活性ではなく別の要因があるのではないかと考えられる. 催芽3日後,2週間後,出穂約1週間後の各生育段階で高温処理を実施しa-アミラーゼ酵素活性を分析した.催芽3日後,2週間後の植物体では用いた全ての品種において高温処理によるa-アミラーゼ酵素活性は減少傾向だった.出穂後約1週間の植物体では,高温登熟障害耐性・感受性品種ともに高温処理により穂でのa-アミラーゼ酵素活性が大きく上昇した.玄米外観形質の分析結果から感受性品種では白未熟粒率の増加が確認された.より早い生育段階での植物体中のa-アミラーゼ酵素活性を調べることでイネの高温登熟障害耐性程度を推定可能であるか,さらに詳細な分析を継続していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の夏の出穂期に安定同位体の13C暴露実験による炭素のトレーサー実験を実施した.高温下で同化された炭素のその後の分配特性を,高温登熟障害耐性程度が異なる品種間で調査する目的で実施した.高温登熟障害耐性品種の「ふさおとめ」において他品種と比べて興味深い炭素の分配特性が確認されたが,今年度の夏は非常に高温だったため用意したサンプルの枯死が例年より多発し十分な反復数が確保できなかった.さらに分析機器の故障も相まってトレーサー実験は遅延および再検討が必要となった.また,a-アミラーゼの分析については,処理条件・品種等を増やし現在も分析は継続中である.
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今後の研究の推進方策 |
高温登熟障害耐性程度の異なる品種を用いて, 安定同位体の13Cを用いた暴露実験による炭素のトレーサー実験を出穂期に実施し,高温下で同化された炭素のその後の分配特性を調査する.枯死が進んだ今年度は異常な高温と密植が原因と思われたため,栽培間隔をできるだけ取るなどの改善をすることで,高温登熟障害の発生(白未熟粒の増加)と高温下での炭素の分配特性の関係解明を目指す.それに加え,a-アミラーゼの酵素活性・遺伝子発現の分析を進めて,高温下でのa-アミラーゼの作用機序を精査する. 「高温適応品種」の早期選抜法の確立を最終目標に,高温登熟障害耐性品種の形態学的特徴・水分生理形質・物質代謝機構・遺伝子発現など,選抜項目になりうる特性を見出し,その可能性を総合的に検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中の物品費の高騰を鑑み,購入にあたっては可能な範囲で安価な物品を選択し使用の節約にも努力した. また,当初の計画通りに進まなかった実験分もあり,次年度に繰り越すことで実験の再実施の際に計画的に使用したい.
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