これまでの研究結果から、イネの高温不稔耐性と葯に存在する気孔数との間には高い正の相関があることが判明し、葯の気孔は、①蒸散により葯自身を冷却し高温から花粉を防御する機能と②葯を脱水し開裂・花粉飛散を促進する機能の2つの重要な役割を果たしているとの仮説を構築した。本研究では、仮説を検証することにより、葯の気孔が高温不稔耐性に及ぼす影響や生理的機能を明らかにする。 これまで、葯の表面温度測定では高温処理中の開花状態の葯の温度測定を試み、葯を含む籾表面の温度を反映した結果となってしまったが、葯気孔数の多い品種と葯気孔数の少ない品種には籾表面の明確な温度差が認められた。また、耐性及び感受性品種の高温処理後の花粉の状態をヨウ素デンプン反応により解析した結果、耐性品種は高温でも健全な花粉の含有率が高いことが明らかになった。したがって、葯の気孔からの蒸散による葯の冷却により、花粉の温度上昇が抑制され花粉能力が維持された可能性が示唆された。次に、葯の水分状態の検証のために、葯の開裂速度を計測したが、高温下での連続撮影では機器に異常が生じ、撮影が困難であることが分かり、急遽、目視での開花開始から終了までの時間の計測に変更した。開裂速度の計測はできなかったが、高温時の開花開始から終了までの時間は、感受性品種では明らかに長くなっていることが判明した。 本年度は葯の気孔の葯の水分状態への関与を明らかにするため、葯の含水量計測を行った。耐性品種と感受性品種それぞれ、高温処理した小穂から開花直後の葯を採取し、超マイクロ天秤で秤量後、乾燥させ乾燥重量を秤量し、含水率を求めた。その結果、耐性品種の含水率は感受性品種に比べ、低いことが判明した。耐性品種は葯の気孔数が多いため、葯の脱水を促進していることが示唆された。
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