R4年度までの実験でクサキョウチクトウ青色品種の可逆的花色変化の主要因が花冠pHの変化であることを明らかにしたため、本年度は青色品種 ‘Blue Paradise’ を花冠が青色になる気温17°C・暗黒と赤紫になる30°C・照明下で開花させた花冠からRNAを抽出し、RNA-seq解析を行った。その結果、シロイヌナズナのナトリウム/水素イオン交換タンパク2のホモログであるNHX2様遺伝子 (PpNHX2) が発見され、赤紫花冠では青色花冠に比べて発現量が半分以下に(FC value -2.19)減少していた。
この結果、クサキョウチクトウ青色品種の花色変化が花冠pHの変化によるものであり、pHの変化にはイオントランスポーターであるNHX2様遺伝子の発現が関与していることが明らかになった。今後はこの遺伝子を花色変化の原因遺伝子候補として品種・環境を変えて発現解析を行う予定である。また、赤花・白花品種でもpHの変化が見られることから、この遺伝子がクサキョウチクトウ品種において普遍的に環境の影響によって発現を変化させている可能性は高い。
今回得られたトランスクリプトームはアントシアニン合成系遺伝子をはじめ、花の形質に関する多くの遺伝子を含んでおり、今後のフロックス属研究の基礎資料として重要である。例えば、アントシアニン合成系でジヒドロケンフェロールからジヒドロケルセチンを合成するFlavonoid 3′-hydroxylaseはシアニジンを合成するための必須の酵素であるが、これをコードする遺伝子はフロックス属においてクローニングされていなかった。今回のトランスクリプトームからこの遺伝子のホモログの存在が確認できたため、今後のフロックス属の花色に関する研究の一助となる。
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