研究課題/領域番号 |
21K05576
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
小杉 祐介 香川大学, 農学部, 准教授 (80325323)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 花器官の老化 |
研究実績の概要 |
園芸産物の老化プロセスの解明は鮮度保持技術の向上に不可欠である.本研究では,花き園芸産物の中でも花器官が急速に老化する特徴を持つキキョウ(Platycodon grandiflorus)に着目し,花器官で老化時に発現差が生じる遺伝子群を探索し,その発現が花器官の老化進行に伴いどのように調節されるのかを解明することを目的としている.令和3年度には,開花時(老化ステージ2)の花の花弁ならびに老化が観察される直前(老化ステージ4)の花の花弁で発現差のある遺伝子を同定するためのRNA-Seqライブラリの構築と塩基配列データの収集を行った.ライブラリ構築には分解の進んでいないRNAが必要であるが,老化時の花弁組織では核酸を含む細胞構成成分の分解活性が増加する可能性が指摘されている.キキョウにおいても特に老化ステージ4の花弁組織からの抽出でRNAの分解の懸念があったことから,ライブラリ構築にあたりtotal RNA抽出条件を検討した.スピンカラムを用いたキットによるtotal RNA抽出の初段階で行われる組織のホモジネートの調製には,花弁組織を採取後直ちに抽出緩衝液中で磨砕してホモジネートを得る方法と,花弁組織を液体窒素で凍結粉砕後に抽出緩衝液を加えてホモジネートを得る方法が考えられる.キキョウ花弁では後者のホモジネート調製法を採用することで分解の進んでいないtotal RNAが得られることが明らかになった.各ステージ3花の花弁から別個に抽出したtotal RNAについてアガロースゲル電気泳動により品質を確認したうえで,RNA-Seqライブラリの構築と塩基配列データの収集を委託した.合計6検体のtotal RNAのそれぞれについてPoly A精製処理後ライブラリが構築され,いずれからも良好な品質(Q30 >95%)で塩基配列が読み取られ,FASTQ形式のデータとして整理・回収を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の遂行にあたって発現差のある遺伝子の検出・同定方法を検討し,近年普及してきた手法である次世代シーケンサーによるRNA-Seqライブラリーを用いた解析を採用することで,開花時(老化ステージ2)の花の花弁ならびに老化が観察される直前(老化ステージ4)の花の花弁のそれぞれで発現する転写物の塩基配列データを迅速に回収することができた.解析対象が老化時の花弁組織であることから,本手法の採用にあたっては検体であるtotal RNAの品質が懸念されたが,抽出条件の検討によりライブラリ調製に支障のないtotal RNA検体が得られた.さらに全検体についてライブラリが構築され,高品質な塩基配列データを回収することができた.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度には開花時(老化ステージ2)の花の花弁ならびに老化が観察される直前(老化ステージ4)の花の花弁のそれぞれで発現する転写物をFASTQ形式のデータで得た.令和4年度はこのデータの比較解析に着手する.キキョウでは完全な遺伝子情報が付された既存のゲノム情報が無いことから,de novo transcriptome解析を採用する.塩基配列データをアセンブルすることで推定遺伝子を得て,これらの推定遺伝子のうち,老化ステージ2と4で発現量に変化のあるものを抽出する.合わせて,公共データベースをもとにこれら推定遺伝子に遺伝子情報の付加を行い,発現差の認められた遺伝子の機能推定を行う.その後の計画としては,発現差が認められた遺伝子について,リアルタイム定量RT-PCRによるキ転写物量解析を行い,花器官のエチレン生成と遺伝子発現のタイムコース,エチレン応答性などの特性から,これら遺伝子の発現プロファイルを明らかにしていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:発現差のある遺伝子単離のための実験方法として検討していたサブトラクション法による単離に代わり,次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を採用したことにより支出が抑えられた.また,コロナ感染対策により当初計上していた旅費が支出されなかった. 使用計画:次年度使用額については翌年度分と合わせ,引き続き,発現差のある遺伝子の解析実験のための経費,論文投稿のための関連経費,学会大会が対面で開催された場合の旅費として使用する計画である.
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