本研究ではまず、4種のアブラナ科植物の葉面より約600株の細菌を分離し、寒天培地上にてアブラナ科黒腐病菌(Xanthomonas campestris pv. campestris: Xcc)の発光変異株と混合培養後に発光観察を行い、発光がほとんど観察されなくなる、すなわち、Xccの増殖を抑制すると推測される株をいくつか選抜した。選抜株によるXccの増殖抑制能を確認するために抗生物質耐性に基づいた細菌間競合試験を行ったところ、当初の期待に反して一部の選抜株はXccの増殖を抑制しないことが明らかとなった。Xccの増殖抑制能をもたなかった株は何らかの機構によりXcc発光変異株が有する発光遺伝子の発現を抑制したのではないかと考えられた。Xccの増殖抑制能および顕著な発病抑制能が確認されたミズナ葉面分離細菌Mi1-2A株の全ゲノム解析を行ったところ、6型分泌系をコードすると推定される遺伝子クラスターを少なくとも2つ有することが確認された。本菌はXccだけでなくアブラナ科黒斑細菌病菌(Pseudomonas cannnabina pv. alisalensis: Pcal)の増殖抑制能を有することも確認された。また、Mi1-2A株と標的細菌を孔径0.2マイクロメートルのフィルターで隔てて培養試験により標的細菌の増殖抑制には両細菌の接触が必要であることが示唆された。最後に、Mi1-2AによるXccあるいはPcalの増殖抑制、ならびにMi1-2A株による各病原細菌により引き起こされる細菌病害抑制におけるT6SSの関与を検討した。各T6SSクラスター上のtssC遺伝子を薬剤耐性遺伝子に置き換えた変異株を作出し、細菌間競合試験を行った結果、一方のT6SS変異株で細菌増殖能の低下が確認された。また、植物接種試験においては、発病抑制能がやや低下する傾向がみられるとの予備的知見を得ることができた。
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