研究課題/領域番号 |
21K05603
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
武部 聡 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20227052)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 膜孔形成毒素 / 広域選択毒性 / Bacillus thuringiensis / 生物農薬 / スクミリンゴガイ / チャコウラナメクジ |
研究実績の概要 |
本研究はCryタンパク質の優れた標的細胞認識機構を用いた駆除法の確立を目指している。Cry46Abは土壌細菌Bacillus thuringiensis (Bt)が産生するβ型膜孔形成タンパク質毒素(βPFT)のひとつで、ボウフラのほか、スクミリンゴガイやチャコウラナメクジに食毒性を示すが、魚類やセンチュウには作用しないという生物種を跨ぐ選択毒性を示す。このCry46Abの標的生物認識機構を利用して、有害生物の効率的駆除および安全かつ環境負荷の小さい生物農薬の設計を行う。まず、Cry46Abの標的細胞認識に必要なペプチド領域を標的生物の受容体との結合能から同定する。次に、このペプチドとウェルシュ菌などが産生する二成分毒素(ι毒素)の膜孔形成成分との融合タンパク質を作製し、酵素成分と組み合わせて使用することで有害生物駆除の有効性を検討する。さらに、Cryタンパク質の結晶化因子を付けて不溶化し、水中や多湿環境でも使用できる生物農薬の開発を試みる。 2021年度は、Cry46Abの標的細胞認識に必要なペプチド領域を検討した。このタンパク質のアミノ酸配列と予想される立体構造から、標的細胞表面にある受容体との結合に関与すると思われるアミノ酸を選抜し、アラニンに換えたアミノ酸置換変異体を作製した。これら置換体の殺虫活性を指標に標的細胞認識に必要なペプチド領域を絞り込んだ。 つぎに、このタンパク質の生物種を跨ぐ選択毒性について、標的生物認識は受容体との結合で決まるのか、それに続く膜孔形成へのステップをも含むものなのかを調べる。標的生物の受容体との結合性の検討は、標的生物の消化管から調製した冊子縁膜小胞を用い、殺虫活性が変化したアミノ酸置換変異タンパク質の結合性を調べることで進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、Cry46Abの標的細胞認識に必要なペプチド領域の検討のため、大腸菌の発現系を用いたCry46Abおよびその変異体の調製系の確立を行った。Btの発現系は既に構築してあるが、Bt細胞は遺伝子導入の効率が低いので、多くの変異遺伝子を扱うには大腸菌の系の方が都合がよい。 発現ベクターpGEX-2T(GST遺伝子を持つ)にcry46AbとGFPの遺伝子をつないで、Cry46AbのN末端にGSTタグが、C末端にGFPタグが付くようにしたプラスミドを構築した。これを大腸菌BL21に導入してタンパク質の調製を試みたが、期待した収量は得られなかった。これは、cry46AbがBtの遺伝子であるためと考え、コドン使用頻度とGC含量を大腸菌に合わせて遺伝子を設計し直した。このDNA断片の片方の鎖のみを150塩基程度の長さで、さらに、末端十数塩基が隣り合う合成1本鎖DNAと相補的になるように合成したプライマーを用意し、3'-末端が相補的に塩基対形成したプライマー同士が互いを鋳型として伸長反応を繰り返し、最終的に遺伝子全長を増幅するリカーシブPCR法により、cry46AbおよびGFP遺伝子のDNA断片を作製した。これを用いて、pGEX-2T/BL21の発現系でのタンパク質調製の収量を増加させることができた。 Cry46Abの標的生物認識部位は、他の膜孔形成毒素との構造比較からドメインⅠに存在すると予想された。そこで、Cry46AbのドメインⅠを構成するアミノ酸配列から受容体との結合に携わる領域の候補を数カ所選び、それぞれの領域のアミノ酸をアラニンに換えたアミノ酸置換変異体を作製した。これら変異体タンパク質を調製し、生物検定により殺虫活性を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
Cry46Abおよび変異タンパク質の調製と生物検定まで進んでいるので、今後は当初の計画通り、変異タンパク質の消化管細胞への結合の検出、細胞膜上の小孔形成の確認を行い、さらにCry46Abの認識機構を用いた生物農薬の設計に取りかかる。 変異タンパク質の消化管細胞への結合の検出は、生物検定の結果、致死活性が無くなる、または弱くなった変異体について、消化管の上皮細胞への結合を抗Cry46Ab抗体により検出する。結合が確認された変異体は、さらに標的生物消化管から調製した上皮細胞冊子縁膜小胞(BBMV)を用い、免疫沈降法等により受容体との結合能を測定する。 細胞膜上の小孔形成の確認は、標的細胞膜にある受容体への結合能を保持する変異体については、食毒試験後のLDH漏出試験や人工リン脂質二重層膜を用いたカリウムイオン漏出試験で膜孔形成の有無を調べる。 以上の実験を複数の標的生物種について行い、Cry46Abの標的生物認識が受容体との結合で決まるのか、それに続く膜孔形成へのステップをも含むものなのかを明らかにする。 Cry46Abの認識機構を用いた生物農薬の設計は、Btの胞子形成期に高い転写活性を示す2つのプロモーター配列とタンパク質結晶化因子を組み込んだ発現ベクターpPcyt1A-4AaCterに、Cry46Abの標的細胞認識部位と強い活性を持つ毒素の膜孔形成成分をつないだDNA断片を連結したプラスミドを作製し、Btの発現系を用いて調製する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的なCovid-19 の流行により旅行が制限され、国内外の学会が中止、または開催してもvirtual format となり、旅費を使うことができなかった。 次年度は規制緩和に期待しつつ、virtual formatであっても学会での成果発表を前向きに検討し、旅費は調査研究等に使用する予定である。
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